大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
本記事は、『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋してご紹介いたします。

孫正義さんが、色紙に必ず書く座右の銘とは?Photo: Adobe Stock

どう世の中の役に立ちたいのか?

 多くの人にキャリアヒストリーを聞いていて、うまくいっている人には共通点があることに気づきました。それは、「どんな仕事をしたいか」というよりも、「どう生きたいのか」という思いがしっかり確立されている印象があったことです。

 仕事選びや会社選びの上位概念、と言ってもいいかもしれません。考えてみたら当たり前で、本来は「どう生きたいのか」を実現させるために、仕事や会社はあるわけです。そうでなければ、仕事や会社に人生を委ねてしまうようなことになりかねません。

 あくせくと成長を目指すのか、あるいはゆったりと人生を楽しみたいのか。海外でバリバリやりたいのか、故郷に帰って働きたいのか。大きく稼ぎたいのか、そこそこでいいのか。そういった「どう生きたいのか」もありますが、それは意識を内向きにしたときの発想。内側の上位概念です。

 意識を外に向けると、概念は違う角度から見えてきます。言ってみれば、外側の上位概念。それが、「どう世の中の役に立ちたいのか」です。そして、うまくいく人は、内側だけでなく、外側にも上位概念がしっかりあるのだと思います。

 とても印象に残っているのが、ソフトバンク創業者、孫正義さんへの取材です。恩師である、経営学者の野田一夫さんとの対談でした。野田さんは、創業間もない時代の孫さんやパソナの南部靖之さんなどを支援していた人でした。

 あるとき野田さんは、孫さんと南部さんにこんな話をしたそうです。

「君たちは、夢と志の違いがわかるか」

 そして野田さんは、その違いについて孫さんに語ったのです。

「夢というのは、漠然とした個人の願望だ。車を買いたい、家を持ちたいといった夢はみんな、個々人の未来への願望。でも、その個々人の願望を遥かに超えて、多くの人々の夢、多くの人々の願望を叶えてやろうじゃないかという気概を志と言うんだ。夢は快い願望だが、志は厳しい未来への挑戦だ。だから、志と夢ではまったく次元が違うぞ。夢を追うなんて程度の男になってはいかん。志を高く持て」

 孫さんは、この言葉に衝撃を受けたそうです。これが、ベンチャー企業のスケールを遥かに超えて、ソフトバンクが爆発的な急成長を遂げた原動力になったことは大いに想像できます。大きな志があったからこそ、多くの仲間が吸い寄せられるようにソフトバンクに集まったことも。

 孫さんは、サインを求められると、色紙に唯一書く言葉があると語っていました。

 それが「志高く」。

 高い志があるからこそ、今なお孫さんはチャレンジをし続けているのです。

 志とはつまり、どう世の中に役に立っていきたいのか、ということに他なりません。どんな仕事をするのか、の前に、何のために仕事をするのか、どんな人生を追い求めるのか、それを問うてみるべきだ、ということです。

 先にも触れているように、仕事とは誰かの役に立つためにあります。自分のやりがいのためにあるわけではない。やりがいがあっても、誰の役にも立てないなら、それは仕事と言えるでしょうか。やっていて、本当に楽しいでしょうか。

 志とはつまり自分が担う仕事を飛び越えた先にある、「誰にどんなふうに喜んでもらいたいのか」ということです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。