「今度クライアントと会食するから、『いい感じの店』探しといて!」
このような指令を上司から受けることがある。しかし、「いい感じ」という言葉はとても抽象的で、店選びの軸としてはあまり役に立たない。結局、なんとなくレビューが高い店を選んでみたものの、相手にあまり喜んでもらえなかった…往々にしてこのような結末になりがちだ。「会食が苦手だ」と感じている人も少なくないだろう。
そこで今回は、新刊『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』の著者で、大手広告代理店時代に最大28回/月の会食を経験した会食専門家・yuuu氏に、「店を選ぶ前にやるべきこと」を伺った。(聞き手/『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者 安達裕哉氏、構成/ダイヤモンド社 根本隼)

職場の飲み会の「仕切りが上手い人」が“店を選ぶ前”に必ずやっていることPhoto:Adobe Stock

会食のスキルは明文化されていなかった

――会食専門家のyuuuさんは大手広告代理店ご出身で、数々の会食を成功させてきたとのことですが、初めから会食が得意なタイプだったんですか?

yuuu いえ、全然得意ではありませんでした。

 広告代理店業界というと、いわゆる「体育会系」のコミュニケーション能力が高い人が多いイメージがあると思います。それはある程度事実なのですが、最近は「人とコミュニケーションをとるよりも、物事をじっくり考える方が好き」というタイプの人も結構いるんです。

 僕は後者のタイプで、大学院での研究分野がマーケティングだったことがきっかけで、広告代理店に入社しました。

――なるほど。全員が「会食が得意」というわけではないんですね。

yuuu 会食でのパフォーマンスが優秀なのは間違いないのですが、最初から得意というよりは、先輩にノウハウを教わりながら、徐々にスキルを高めている感じです。

――やはり、広告代理店では、先輩から後輩へと「会食スキル」が受け継がれるんですか?

yuuu そうですね。ただ、習得が必須のスキルなのに、その具体的な中身が全く明文化されていなかったので、人によってスキルの巧拙に大きな差がありました。

 そこで、過去に先輩からもらったアドバイスや、いま僕が後輩に教えるときに意識しているポイントを言語化して、体系的にまとめたのが本書です

――つまり、これまで幾多の場数を踏んできた会食専門家のyuuuさんが、これまで「暗黙知」だった広告代理店業界の会食スキルを「形式知」にしたんですね。

yuuu おっしゃる通りです。会食の成否を分けるのは「センス」ではなく、実は「スキル」であり、しかも誰でも習得できるということを多くの人に知っていただきたいですね。

 ちなみに、本書のメインテーマは会食ですが、会食を成功させるための「作法」や「マインドセット」を身につけておけば、忘年会・社内飲み・友人との会合など、どんなタイプの食事会にも応用できますよ。

仕切りが上手い人は、店選びの前に「会食の目標」を設定する

――それでは、会食を成功させるためのメソッドを具体的に教えてください。

yuuu まず、会食の準備から開催翌日のフォローまでをフローチャートにすると、全部で15の工程があります。

職場の飲み会の「仕切りが上手い人」が“店を選ぶ前”に必ずやっていること

――すごいですね、そんなに多いんですか。

yuuu 特に、事前準備だけで11工程もあります。逆にいうと、会食当日と翌日のタスクは4つしかありません。僕は事前準備のことを「前始末」と呼んでいますが、この「前始末」の徹底こそが、会食の成功に直結すると考えています。

――具体的に、どんな「前始末」が必要なんでしょうか?

yuuu 最初にやるべきなのが、「目的の理解・設定」です。

 なぜなら、会食はただの雑務に見えがちですが、会社の経費を使う以上は「目的意識」を持って徹底的に準備をして、「成果」を出すべきだからです。つまり、プロジェクトマネジメントと会食のプロセスは共通点が多いんです。

 ですが、普段の仕事では、プロジェクトの背景・目的・業務フロー・KPIなどを細かくセッティングするのに、こと会食ではそれがなおざりになる。僕は、そこに違和感がありました。

 たとえば、上司から「先方と4人で会食することになったから、とりあえずいい感じのお店探しておいて」といった指令が下りてくることが、しばしばあると思います。

 でも、このような抽象的な指令から動き出すプロジェクトなんて、ビジネスではあり得ませんよね。

――確かに、そうですね。

yuuu なので、プロジェクトの起点となる「会食の目的の理解・設定」は非常に重要です。どんな目的を設定するかで、どんな店を選ぶべきかも左右されますからね。

――どのように目的を設定すればいいのでしょうか?

yuuu 個人的には、およそ3か月後の「クライアントと達成したいこと」から逆算して、今のうちに「どんな関係を築いておきたいか」を考えるのがおすすめです。

 たとえば、3か月後にコンペがあるとしたとき、それに向けたクライアントからの「情報収集」を目的にするなら、相手が耳寄りな情報を話しやすい個室を選ぶべきです。

 逆に、自社サービスを使っているクライアントさんに継続利用をお願いする目的であれば、かしこまってしまう個室よりも、「盛り上がりやすさ」を重視して賑わっている空間をチョイスした方が成功確率が高まります。

 ここでお伝えしておきたいのは、目的が不明確なのであれば、経費と時間の無駄になるので、会食のセッティング自体をやめた方がいいということです。もし今まで「なんとなく」会食を開いていたのであれば、ぜひ会食目的の明確化から取り組んでほしいですね。

(本稿は、『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』の著者で、会食専門家のyuuu氏へのインタビューをもとに構成しました)

yuuu
会食専門家・幹事研修講師 
京都大学大学院修了後、新卒で大手広告代理店に入社。百戦錬磨の会食猛者達に揉まれ、最大28回/月の会食を経験。その苦戦苦闘の末に、すべての会食・食事会を誰もが成功に導くことができる、徹底的に実務に即した体系的な会食ノウハウ=「会食メソッド」を独自に生み出す。
現在は、自らセッティングした会食をきっかけに、念願のスタートアップ企業に就職。転職後も会食を通じて信頼関係を構築した企業から仕事を受けるなど、会食で人生の起点を創り出した。
『ビジネス会食 完全攻略マニュアル』が初の著書。本書特典の「珠玉の会食店/困ったときのハズさない店リスト」は、8年もの期間、ほぼ365日名店巡りを続けてきた記録の集大成。