お盆休みも明け、いよいよ上半期も残すところあとわずか。目標の達成に向けてラストスパートをかけたくなる時期ですが、目標を気にするあまり「自分本位な仕事をしてしまう」のも避けたいところ。目先の結果を求めるあまり、相手からの信頼を失ってしまうことも。
そこで今回は、2024年6月に発売するとたちまち重版となり、「仕事の本質を学べた」「お客様とのエピソードの数々に5回は泣きました」と反響を呼んでいる『記憶に残る人になる』の著者・福島靖さんと、株式会社Omoitsukiの代表であり『大人の夢の叶え方』の著者でもある幸義一さんに、人から信頼を得るためのコツについて話していただきました。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
男性営業が「ヘアゴム」を持ち歩く理由
福島 靖(以下、福島) じつは僕、いつも「ヘアゴム」を持ち歩いてるんです。
幸 義一(以下、幸) あのヘアゴムですか? でも福島さん、髪短いですよね?
福島 はい、見てのとおり、僕は髪が短いので結べません。
でもこれまでに2回だけ、このヘアゴムを使ったことあるんです。
きっかけは、あるお客様と会食していたときのことです。女性の経営者だったのですが、途中でヘアゴムが切れてしまったんです。でもその女性は替えを持っていなくて、その後は髪をとても邪魔そうに払いながら食べていました。
僕は「ヘアゴムを持っていたらよかったのに」と思って、すぐにコンビニで買いました。
1本だけ取り出したらちょっと気持ち悪いので、1個1個小分けになってるやつを持ち歩いて、そのときが来たら「もしよかったら使ってください」と、差し出すんです。
実際、年に1回くらいは出番があります。すると相手は、「なんでそんなものを持ち歩いてるんですか?」と驚くとともに、僕のことを覚えてくれるんです。
営業の世界で有名な「とあるバイブル」
幸 そこまで用意しているとは、脱帽です。
ここまでもお話ししてきましたが、自分に興味を持ってもらうことが、相手から信頼を得る第一歩になります。
他にも、何か持ち歩いているアイテムはあるんですか?
福島 あとは、レストランに行ったときに膝にかけるようなナプキンですね。食事のときではなく、お客様のご自宅に伺う際に使います。
これは、営業の世界でバイブルとされる『かばんはハンカチの上に置きなさい』という本にある手法を真似したものです。
著者はプルデンシャル生命保険の伝説の営業マンである川田修さんです。僕の『記憶に残る人になる』にもコメントを寄せてくだいました。
僕はこの本と、川田さんの考え方が大好きで、自分でも真似していました。
その中でも代表的なのが、タイトルにもなっている「かばんをハンカチの上に置く」という気遣いです。
靴を脱いで上がるご自宅や事務所に伺うとき、カバンを床に直接置くのではなく、まずハンカチを敷いて、その上に置くんです。
道路や地面に置くことも多いカバンを床に直接置くことは、お客様の家に土足で上がり込んでいるのと同じことだと、川田さんは考えているんです。
僕も「たしかにそうだな」と思って、真似するようになりました。
僕はもともとワインのソムリエでもあったので、ハンカチではなくワインに添えるナプキンを用意して。
この気遣いを実践すると、やはりそれを見たお客様はとても喜んでくれました。
最初は契約しないと言っていたのに、僕がナプキンを敷いた瞬間に「契約するよ」と言ってくださったお客様もいました。
幸 それは嬉しいですね。
福島 こういったアイテムをたくさん持ち歩いています。いつ使うかわからないけど、用意しておくと必ず使えるんです。
僕はもともとコミュ症なので、その場で何か機転をきかすのが無理なんです。だからあらかじめ用意しておくようにしているんです。
言葉で伝えるより、目に見える形で示す
福島 幸さん、ロマネスコって知ってます?
幸 聞いたことはある気がしますが…野菜でしたっけ?
福島 そう、野菜です。
僕も5年くらい前に、ある会食でお客様から同じよう問われました。当時の僕はそれがなんだかわからなかったので、「ロマネスコって何ですか?」と聞きました。そしたら「ブロッコリーとカリフラワーを足して、ゴツゴツした星みたいな感じの野菜」だと教えてくれました。
……今の言葉で、理解できますか?
幸 ……僕はちょっとできませんでした。
福島 僕もです。まったくわかりませんでした。
でもそれから1カ月後ぐらいに近くのスーパーに行くと、売ってたんです。ロマネスコが
そこで初めてわかったんです。たしかに緑色でゴツゴツしていて、お星さまみたいな感じでした。
つまり何が言いたいかというと、言葉で伝えられることには限度があるということです。
伝え方が上手な人がどれだけ言葉を駆使して伝えたとしても、理解できることには限度があるんです。
だけど、見たらわかるんですよ。
だから相手に対する思いや気遣いも、ビジュアライズすることが大事なんです。
『記憶に残る人になる』にも書きましたが、ただ想っているだけでは「想い」は伝わりません。
先ほどのヘアゴムもナプキンも、以前の回で紹介した僕のコースターや幸さんの名刺も、すべては想いを形にしたものです。
自分が何を考え、何を大切にしているのか。
アイテムを使ってもいいから、在り方を一瞬で的確に伝えることが、信頼を得るためには大事なんです。
(本稿は、書籍『記憶に残る人になる』の著者・福島靖さんが行なった対談の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。地元の愛媛から18歳で上京。居酒屋店員やバーテンダーなどを経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。お客様の記憶に残ることを目指し、1年で紹介数が激増。社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。株式会社OpenSkyを経て、40歳で独立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。
外資系の製薬会社、医療機器会社を経て2021年3月に起業。全くの未経験からTwitter(現X)をはじめ、約2年でフォロワーが5万人に。集客、販売、採用、PRの全てをTwitterで賄ってきた経験から事業展開。「あなたにお願いしたい」と言われる人(アカウント)になるためのコンサルティング。(株)Omoitsukiを創業し現在4期目。SNSを使って求職者を集めるSNS採用支援をメインサービスとして提供。2023年「大人の夢の叶え方」を商業出版し、著者として講演活動なども行う。