今からそういう気構えで振る舞いなさい。スポンと抜けた存在にならないとダメよ
さすがに気になった私は数日後、広報部長と一対一で会う機会があった時、
「こんな噂を耳にしたんですけど」
とさりげなく投げかけてみました。
「もう噂が回っているの? 全くやりづらいわね。時期を見てきちんと話そうと思っていたのだけど」
部長はあっさりと認めました。
「あなたにはPRディレクターになる素質があるわ。そのつもりでいてちょうだい」
数ヵ月前に外から入ってきた新しい広報部長のアナベルは、見た目こそケイト・モスですが、実は面倒見がよい、肝っ玉母ちゃんタイプの女性です。気が早い彼女は、
「波風が立つからすぐにというわけにはいかないけれど」
と前置きをしながら言いました。
「今からそういう気構えで振る舞いなさい。スポンと抜けた存在にならないとダメよ」
上に立つ立場になるんだから、もう同僚とつるむなってことよ
部長のオフィスを出た私は動揺していました。ディレクターに昇進してもいないのに、「そう振る舞え」とは一体どういうことか。「スポンと抜けた存在になれ」とは一体どういう意味か。全くわからなかったのです。
PR仲間に相談できることでもないので、私は部長のアシスタントをしている広報部のお局様のオフィスに駆け込みました。アネゴと呼んで私が慕っている彼女は、誰よりも口が固く、私がもっとも信用している人でした。私のオフィスが最近「吹きだまり状態」にあることをよく知っているアネゴは、歯に衣着せずに言いました。
「上に立つ立場になるんだから、もう同僚とつるむなってことよ」
腑に落ちない私は、つるんでいる意識はないこと、人が勝手に集まってくること、みんなとの雑談が情報収集に役立っていることを力説していました。メガネの奥から鋭い視線を逸らさずに私の言い訳を聞いていたアネゴですが、私が一通りのことを言い終わるのを待ってから言いました。
嫌われたくないって思っているうちは絶対に伸びないわよ
「ジュンは人が集まってくるのは人望だと思っているでしょ。そしてみんなに嫌われたくないって思っているでしょ」
図星です。返す言葉すらありません。パリジェンヌ呼ばわりされていい気になり、仲間との愚痴タイムを楽しんでいた私です。
「でもね、出世って選挙じゃないのよ。好かれたってどうしようもないのよ」
アネゴは少し声を和らげ、続けました。
「嫌われたくないって思っているうちは絶対に伸びないわよ。まだ出世は時期尚早ってことかしらね」
私のように「好かれたい」と思っていらぬ努力をしたり、「嫌われたくない」と思って周りに同調してしまう人、多いと思います。なぜそうしてしまうのかといえば、それは人の意見を絶えず気にしているからです。もっと言えば、自分に自信がないからです。
本当に人望がある人は、他人とつるむようなことはしません。人の悪口を言ったりしません。そして取り巻きを必要としません。
人は人、自分は自分。そう割り切ることができて初めて、人は伸びていきます。美しく輝いてきます。アネゴに喝を入れられた私は身が引き締まる思いでした。それでも私の手探りはまだまだ続くのでした。
※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。