ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。
「いいお母さん像」にまだまだ囚われている自分がいた
「こうあるべき」という「いいお母さん像」に自分がまだまだ囚われていることをはっきり認識した「ピカール談議」でしたが、ある日、更に驚きの事実に直面しました。それは、娘の遠足の付き添い役を買って出た時のことです。
遠足はパリ市内にある小さな動物園に半日出掛ける、という内容のものでした。付き添い役を募るメールが届いた時、私は即座に登録しました。有休を取っての参加でしたが、娘の初めての遠足です。どうしても付いて行きたかったのです。
当日は張り切って早起きをし、いつもより力を入れてお弁当を作りました。準備したのは日本式におにぎりとタコさんウインナー、卵焼きにかまぼこ。偏食の娘は決して食べないブロッコリーも彩りに添え、リラックマのお弁当箱に詰めてみるのですが、詰め方が下手なためにいまいち見栄えがしません。意気消沈しながらも、頑張ってイチゴとうさぎりんごも用意し、イザ、バスに乗って、楽しい楽しい遠足に出掛けました。
「いいお母さん像」にまだまだ囚われている自分がいた
付き添いには私の他、3名の母親が来ていました。朝カフェの時に会ったことがあるセリーヌとジョゼフィーヌ、そして翻訳家だという在宅ママのミッシェルです。お目当てのレッサー・パンダを見学し、園児に大人気のピンク色のフラミンゴをさんざん見た後、動物園の一角でお弁当の時間となりました。お腹が空いている子ども達は歓声を上げ、それぞれお弁当を広げ始めました。
その内容は、目を見張ってしまうようなモノばかりでした。
ある子はソースなしの素パスタ。別の子は如何にも残りモノっぽい、焦げた骨付きの鶏もも肉に茹でたジャガイモ。スーパーの包装紙のままのタブレ(クスクスに野菜やハーブを和えたサラダ)を取り出した子もいれば、冷え切った三角形のピザを2枚持たされた子もいます。
パリジェンヌのママ友達に注目された、タコさんウインナーとうさぎりんご
我が子の弁当箱を開けてあげると、隣に座っていたセリーヌが感嘆の声を上げました。
「これ、あなたが作ったの?! 凄すぎ!」
その声に釣られて、お母さん達が集まってきます。
「本当にこれ、自分で作ったの?」
「器用ねー。とても私には真似出来ないわ」
ママ友達が注目しているのは、タコさんウインナーとうさぎりんごでした。ちっとも凄くないことを説明するため、デコ弁やキャラ弁の写真を見せるとみんなの態度が一変しました。
「お弁当っていうより、アートみたいね。ちょっとやりすぎ」
「これもお母さんが作ってるの? そんな時間あるの?」
「食べるだけなのに、なんでここまで気張るの?」
パリジェンヌの「なんで?」「どうして?」「誰のために?」
感嘆を通り越して引いています。パリジェンヌの「なんで?」「どうして?」「誰のために?」が始まりました。そうこうしているうちに先生達も顔を出し、しきりにタコさんウインナーを眺めています。大の大人が次々と覗き込むので、注目を集めることが嫌いな娘は小さくなってしまいました。本末転倒なのですが、「悪いことをしたな」と、こちらまでお弁当を隠したいような気分です。
騒ぎが一段落した頃、セリーヌが取り出したお弁当に今度はこちらが驚いてしまいました。トートバッグから出てきたのは、スーパーでよく売っている食パン1斤。そして6枚入りのハムです。セリーヌは当たり前のようにハムをパックから取り出したかと思ったら食パン2枚の間にペッと挟み、向かいに座っている娘に与えました。そして自分の分も同じように用意しました。バターもついていない、そして食パンの耳がついたままの即席サンドイッチです。
こんなに食べないわよ! サンドイッチを準備するのが面倒だっただけよ
思わず釘付けになっていると、その視線に気が付いたセリーヌがこちらに怪訝な顔を向けました。
「あ、いや、そんなにたくさんパン食べるのかな、って、びっくりして……」
慌ててそう取り繕うと、セリーヌは笑いながら、
「こんなに食べないわよ! サンドイッチを準備するのが面倒だっただけよ」
と悪びれもせずに言います。
「多めに越したことはないでしょ。娘ちゃんもお一つ、いかが?」
余計なことはしない。頑張りすぎない。他の人と張り合わない
我が娘は驚いたことに嬉しそうに頷き、即席ハムサンドを早速頬張り始めました。「娘のために」と張り切って早起きした私はなんだったんだろう。なんだか拍子抜けでした。
献身的な子育ては決してしないパリジェンヌです。スタートアップに勤めるセリーヌは時間がないので、お弁当はいつも「ハムサンドとりんご」に決めていると言います。もちろんうさぎりんごではなく、切ってさえいない皮付きの丸ごとりんごです。
余計なことはしない。頑張りすぎない。他の人と張り合わない。「これでいいんです」と割り切るセリーヌはいつだって自然体です。そして自分を責めるようなことは決してありません。
初夏の太陽の下、子ども達は嬉しそうに冷たいピザや素パスタを頬張っています。恥ずかしがる子など一人もいません。
「私も一つちょうだい!」
セリーヌにそうせがむと、彼女は喜んでハムサンドを一つ作ってくれました。外で食べるせいでしょうか。とびっきり美味しいサンドイッチでした。
※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。