ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

パリで大人気なのに、日本人が知らない、日本生まれの「コビドウ」とは何?Photo: Adobe Stock

コビドウみたいな伝統がある日本って素晴らしい国ね!

 パリジェンヌ達が今、夢中になっていることがあります。それは、日本生まれの「コビドウ」です。

「コビドウって本当に効果あるわね!」
「コビドウ、毎週やってもらってるわ」
「コビドウみたいな伝統がある日本って素晴らしい国ね!」

 そう言われるようになり、最初は相槌を打ちながら、心の中で「何のことだろう?」と首を傾げていた私です。ところがある時から、無視できないほどその言葉を耳にするようになり、ついに重い腰を上げて「コビドウ」について調べてみることにしました。

フランスで2015年くらいから絶大な人気を誇っている、日本から来た「古美道」

「KOBIDO」と呼ばれ、フランスで2015年くらいから絶大な人気を誇っているのは、間違いなく日本から来た「古美道」です。

 漢字で書かれてもピンと来ない人も多いと思います。私もそうでした。さらに調べてみると、古美道は15世紀に日本で確立された美顔術。駿河の国で二人の「按摩」師が技を競い合った末に誕生した古美道は、当時の皇后陛下に施されていたことでも知られています。現在では、26代目の家元、望月正吾氏がその技と手法を継承し、積極的に古美道を世界に広める活動を行っているとのことです。

 つまり古美道は、「按摩」から生まれた日本古来のエステ術です。フランスでは、顔面の筋肉に直接働きかけ、収縮を促すことによって最大の引き締め効果を引き出す、究極のフェイシャル・マッサージ術として紹介されています。

なぜフランスで古美道が人気なのか?

 私達日本人にはあまり聞きなれない、そしてなじみのないメソッドがフランスをはじめとする欧州全土で好評を博しているのですから、私は狐につままれた気持ちでした。日本生まれのマッサージがこれだけ流行っているということは、日本人としてとても嬉しいことですが、なぜ、日本では下火の美顔術がこれほどまでにパリでもてはやされているのか、いまいち理解ができなかったのです。

 そんな時、友人のティエリーと話す機会がありました。広告会社に勤めていたティエリーは本家本元の望月師匠の講義を受けて古美道に目覚め、退社して古美道専門のエステを開いた強者です。ティエリーは私の質問に快く答えてくれました。

「フランスには、もちろんレーザー治療やボトックス注射など、進んだ美容医療術は幾らでもあるけど、フランス人女性って顔をあれこれいじくり回す前に、自然の力を使って調整することを好むんだよ」
「でも、どうして今さら古美道なの? 他にもあるでしょ? フランスってほら、フェイシャル・マッサージ天国じゃない?」

 そう差し向けると、ティエリーは少し考えてから言いました。

「そうだね、一番の理由は古美道の効果じゃないかな。いろいろな国でマッサージを学んだ俺だから言えることだけど、古美道の教えはすごいよ」
「効果って? リフトアップ効果のこと?」

 食い下がってみると、ティエリーは呆れたように言いました。

効果があるのは肌じゃない。むしろ心の方

「ジュンには古美道の『道』の意味、説明しなくてもわかるでしょ。古美道は茶道や柔道と同じで、大事なのは心を鍛えること。それはマッサージをする側もされる側もそうだよ」

 してやられた、とはまさにこのこと。フランス人に日本の精神文化論を説かれるとは思ってもいなかった私が言葉を失っていると、ティエリーはこう断言しました。

「効果があるのは肌じゃない。むしろ心の方だよ」

 完全にノックアウトでした。パリジェンヌが古美道に執着するのは、肌の手入れのためではなく、心のケアをするためだったのです。

パリジェンヌがすっぴんでいることが多い理由

 ティエリーにそう言われて初めて、私はパリジェンヌがすっぴんでいることが多い理由がわかったような気がしました。

 それは決して面倒臭いからではありません。手抜きをしているわけでもありません。パリジェンヌがすっぴんをさらけ出しても平気なのは、自分は自分、と気持ちよく割り切っているからです。

 その自信はどこから来るのかという話ですが、それはひとえに日々の努力の賜物です。パリジェンヌはどんなに忙しくても自分と向き合うゴールデンタイムを死守します。外側からだけでなく、内側から身体と心を潤す努力を惜しみません。そしてスキンケアだけではなく、いつでも「快適で幸せ」と思うことができるように、心のケアを怠りません。

 パリジェンヌの強い自己肯定感は決して生まれつきのものではありません。毎日の積み重ねからきているのです。

※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。