世の中には「ギャンブルが好きな人」と「チャレンジが好きな人」がいる。ただ、そもそもギャンブルとチェンジの違いとは何だろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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「何かを始める前に、つい考えすぎてしまう……」
「どうしてもおもいきって行動する勇気が出ない……」

 そんなことに悩んでいる人もいるかもしれない。

 多くの人は「悩むこと」に時間を奪われたくないと思っているが、「何も考えていないバカ」になりたいわけではない。

 しかし、SNSの世界にはわりと「いますぐ行動しろ」と促すメッセージがあふれていることもあり、「いますぐ行動を起こせない自分」にモヤモヤを感じている人も少なくないだろう。

 場合によっては、こういう言葉を真に受け、「えいや!」と行動を起こした人もいるかもしれない。

 そのせいで大失敗し、心が折れてしまった人の話もよく耳にする。
「悩まない人」はもちろん躊躇なく「行動」を起こす。

 ただし、ここでいう「行動」の意味を履き違えている人が多い。
 勇気が出なくて動けない人も、衝動的に動き始めてしまう人も、真の「悩まない人」から見れば、同じくらい愚かなのである。

なぜオンラインサロンは“無謀な失敗”を量産するのか?
──「まず行動しろ」論

 幻冬舎の編集者・箕輪厚介さん(1985年生)とある番組で話をする機会があった。

 箕輪さんはラーメン屋オーナー、経営者のコンサルティング・プロデュース、YouTuber、アーティスト活動など、既存の編集者の枠にとどまらない活動をしている。
 まさに「考える前に行動しろ」を地で行くタイプの人である。

 そんな箕輪さんが「『まず行動しろ』を勘違いしている人が多い」と話していた。

 箕輪さんがラーメン店を始めたとき、多くの人は、彼が何も考えずに衝動的に店をオープンさせたと思ったようだ。

「ラーメン屋をやりたい!」→「まず店をつくった」という具合だ。

 しかし、ラーメン屋をやりたいと思った彼が真っ先に取った行動は「ラーメン店経営に詳しい人に会いまくって、とにかく話を聞くこと」だった。

 ラーメン屋にはどんなリスクがあるか、うまくいくために何が必要かを徹底的に調べ、あらゆるシミュレーションをしていったのである。
 だから、満を持してオープンさせた店には長蛇の列ができた。

 箕輪さんが物事に取り組むときには、いつもこうやって情報を集めているそうだ。

 つまり、「まず行動しろ」とは「何も考えずに思いつきを実行に移せ」ではなく、「まず『徹底的に調べる』という行動を取れ」という意味なのである。

 箕輪さんからすれば、何かを始める前に徹底的に調べるのは自明の理。
 だが、彼のメッセージを受け取った人たちにとっては、それは当たり前ではなかった。

 その結果、大した計画もないまま無謀な冒険に打って出る人が続出したという。

「結果として世の中に無駄な失敗を増やしてしまったのかも……」

 ──箕輪さんはそう語っていた。

 オンラインサロン等はそういった失敗を誘発する場合がある。
 行動する人たちを間近で見ることで、あたかも自分も行動した気分になっている人もいる。

 疑似体験を楽しんでいるうちはいいが、そのまま勢い余って本当に行動を起こすと、だいたい玉砕する。
 なぜなら「事前に調べ尽くすこと」をしていないからだ。

 自分から行動を起こせる人は、オンラインサロン等に過度に依存せず、しっかりと情報を集め、十分に勝算が見込める仮説を立てることで、「動きたくて仕方がない状態」を自らつくる。

 つまり、オンラインサロンにいる「他人の行動」からの刺激のような外的動機ではなく、自らの行動で自らを動機づけするのである。

行動力とは「調べる力」である

 行動する勇気が持てない人と、思いつきで暴挙に出てしまう人は、どちらも「行動=冒険」と思っている点で共通している。

 だから「まず行動しろ」と言われると、必要以上に恐怖心を抱いて固まってしまうか、天に運を任せて無茶なことをやってしまう。

 情報が一部の人の手にしか入らない時代には、イチかバチかの可能性に賭けて大きなリスクを取ることが必要だったかもしれない。

 だが、いまはネットを使えば、たいていのことは時間もお金もかけずに調べがついてしまう。その道のプロに直接コンタクトを取って、詳しく話を聞くことだってできる。

 調べたり作戦を立てたりするプロセスをすっ飛ばし、いきなり丸腰のまま実行に移すのはバカげている。そんなものは「チャレンジ」ではない。単なる「ギャンブル」である。

 チャレンジとは「勝算」が見えている試みのこと。

 一方、ギャンブルは不確実性が高い「運任せ」に近い試み。結果をコントロールしきれないので、神頼みにならざるをえない。

 仕事において、言葉の上では「チャレンジしよう」と言いつつ、実態は単なるギャンブルであることは少なくない。どうすればそれを達成できるのか、何も目算がないまま走り始めているケースがほとんどだ。

 私はギャンブルはやらない。宝くじさえ一度も買ったことがない。

 ビジネスにおいても、「賭け」をしようとは思わない。運任せのゲームで勝つより、自分の頭脳で考え抜いて勝つほうがはるかに面白いからだ。

「悩まない人」には「まず行動=まず石橋を叩く」と捉える思考アルゴリズムがある。

「作戦立案のための初動」であり、現実的には事前リサーチという行動にほかならない。

 あらかじめ情報を集めるだけなら、勇気を出す必要はない。淡々と調べるだけなら、だれにでも行動は起こせる。

 このように、行動を解釈するクセをつけてしまえば、「行動力のなさ」に対する悩みは解消する。

 行動力とは「えいや!」で無謀なアクションを起こす力ではなく、「調べる力」なのだ。

 調べ尽くした結果、「明らかにリスクが高すぎる」と思ったなら、それ以上は行動しなくていい。

 いずれにせよ、実際の着手は調べた「後」でいいのだ。

 また、「これには勝算がある」「どう考えてもうまくいく」という結論になれば、どんな小心者でもアクションを起こせる。

 もはや、やらない理由がなくなるからだ。
 そうなってからが本当のチャレンジである。
 それでも行動が起こせないなら、それは単純にリサーチ不足と思ったほうがいい。

「ビジコンの最優秀ビジネス」がうまくいかないワケ

 ただし、ここで注意すべきなのが、フラットな情報収集は難しいということだ。

 多くの人は、「やりたくないこと」については、無意識に「やらないほうがいい」という結論になる情報を集めてしまう。

 典型は本書で紹介した「銀行づくり」の例だ。

 社長に「銀行のつくり方」を尋ねられたとき、「(やりたくないな……)」と思った人は、半ば無意識的に「できない理由」をピックアップしてしまう。

 ネット検索には限りがないので、結局「どこで調査をやめるか」によって最終結論はいくらでもコントロールできる。

 心の底で「やりたくない」と思っている人は、「うまくいかない情報」ばかりを集め、「これはうまくいかなそうだからやめておこう」と結論を下してしまう。

 つまり、「行動するための情報収集」をしているようで、実際には「自分が動かなくていい理由」を探し回っているわけだ。

 これはよくいわれることだが、ビジコン(ビジネスプランコンテスト)で最優秀賞を受賞した事業プランは、たいていうまくいかない。

 ビジコンの審査員たちはあらゆるマーケットを知り尽くしているわけではないので、よし悪しを評価する際は、いわゆる「美人投票」になりやすい。

 つまり、自分がいちばんうまくいくと思ったアイデアより、ほかの審査員が高く評価しそうな無難なアイデアに票を入れてしまうのである。

 また、そういった事業プランは「審査員ウケ」から逆算したアイデアにすぎず、企画者本人も心の底からやりたいと思っていなかったりする。

 そのため、最優秀賞に輝いた事業プランでも、後日「いざリサーチしてみたらうまくいかなそうなのでやめました」となるケースが多い。

 これも純粋にリサーチしているというより、「やらないですむ理由」を探しているだけなのだ。

 こうしたリスクとの向き合い方については後述するが、ここでは、「行動とは『調べる』行動」であること、そして、調べるときには、だれしも自分の「やりたい/やりたくない」に応じた強いバイアスが入ってくることを知っておこう。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)