悩みがなさそうな人から「ウジウジ考え込んでいないで、まず行動すればいいんだよ」とアドバイスをもらっても、なかなかはじめの一歩を踏み出せない人も多いのではないだろうか?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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悩まない思考の大原則①
「思いどおりにいかない」と
「うまくいかない」は違う。

「悩みとは『問題があること』である」

 あなたは、この説明に対してどう感じるだろうか?

 次の3つから選び、その理由もセットで考えてみてほしい。

 ① 概ね正しそう
 ② 間違ってはいないけれど不十分
 ③ 致命的な誤りがある

 そんなに深刻にならなくても大丈夫。
 気軽に考えてみてほしい。

 ここでの目的は、「悩まない人」の具体的な考え方に入っていく前に、その大前提となる「2つの原則」をお伝えすることだ。
 これを押さえておけば、思考アルゴリズムの転換が起こしやすくなる。

 先ほどの問いは、そのうちの1つに関係している。

 察しのいい人はなんとなく予想がついたかもしれない。

 答えは「③致命的な誤りがある」である。

 逆にいうと、直感的に「①概ね正しそう」や「②間違ってはいないけれど不十分」を選んでしまった人には、悩みやすい人特有の「思考グセ」が染みついている可能性が高い

 多くの人が気になるのは、「なぜそういえるのか?」のほうだろう。

「悩み=問題がある」という考え方には、どんな弊害があるのだろうか?

 予定していたルートがダメになった。さて、どうする?

 Aさんがある目的地を目指している。
 そこに行くためには、電車に揺られて15分ほど行く必要がある。

 しかしこの日は、集中豪雨の影響で電車が運休となり、Aさんはあらかじめ計画していたルートで目的地に行けなくなってしまった。

 ここでAさんはその場にへたり込む。そして、やきもきしながら天候が回復するのを待ち、電車の運転が再開されるよう祈り始める……。

「いったいどうすればいいんだ! なぜぼくの人生はうまくいかないことばかりなんだ!!」

 もしこんな人がいたら? はっきりいって、かなり愚かだと感じるはずだ。

 電車がダメならタクシーで向かえばいい。自転車という手もあるし、最悪歩いてもいい。
 いちいち大げさに嘆いたり、イチかバチかの運転再開に賭けたりせずに、さっさとスマホを取り出して、別のルートを調べればすむ話である。

 しかしじつのところ、世の中の悩みというのは、このケースと同じ構造をしている。

「悩まないでいいことをいちいち悩んでいる」という意味では、だれもがAさんと大差ないのだ。

 なんらかのゴールに向かって行動を取るとき、たいてい人は「こうしよう」という計画や「こうなるだろう」という予測、「こうなったらいいな」という願望を持つ。

 しかし、いざ行動してみると、たいていそのとおりにはいかない。
 その事態を「問題」と呼ぶ。

 たとえば、Aさんは「電車で15分」というルートを予定していたが、電車が走らないという問題にぶつかったわけだ。

 問題が起きたからといって、ゴールをあきらめるしかないかというと、まったくそんなことはない。
 事前に思い描いていたルートがダメになっただけなので、別のルートに切り替えればいい。

 ところが、このとき、なぜかルートの切り替えをあきらめてしまうことがある。
 アテが外れたことに大きく傷ついてしまうからだ。

「当初のルートではゴールにたどり着けない……」という事実に心を奪われ、その場から動けなくなってしまう。初期ルートの周囲をぐるぐる回るばかりで、次のルートに進めなくなる。

 これが「悩み」の状態だ。
 Aさんもどういうわけか、電車のルートがダメになったことに落胆していた。そして、別ルートに目を向けることもなく、いつ運転再開するかもわからない電車を待ち続けているのである。

心が折れてしまう人の盲点
──「思いどおりにいかない」と「うまくいかない」の違い

 きわめてシンプルだが、これが「悩みの発生メカニズム」である。
 世の中の悩みは基本的にすべてこの形に当てはまっている。

 なぜ多くの人は問題にぶつかったときに、「別ルート」に目を向けられなくなるのだろう?
 どうして1つのアテが外れただけで、ゴールへの道がすべて閉ざされたように感じてしまうのだろう?

 端的にいえば、それは「うまくいかない」と「思いどおりにいかない」をしっかり区別できておらず、両者を混同してしまっているからだ。

 裏を返せば、「悩まない人」と「悩みがちな人」の違いは、この2つを切り分ける発想があるかどうかなのである。

 どういうことか? まず言葉の定義を確認しておこう。

「うまくいかない状態」とは、目指すゴールにたどり着けない状態である。

 これに対し、「思いどおりにいかない状態」とは、“予定していたルートでは〟ゴールにたどり着けない状態”を意味している。

 そして、世の中で起きている「問題」の9割は、「思いどおりにいっていない」にすぎない。

 どうやっても目的を達成できない「うまくいかない」の状態はきわめて稀であり、ほとんどは当初の計画が頓挫しただけの途中のプロセスにすぎない。別のやり方を考えて実行すれば、まだどうにでもなるのだ。

 前述のとおり、すぐに悩んでしまう人は、両者を区別できていない。
 そのせいで、実際には計画が「思いどおりにいっていない」だけなのに、物事それ自体が「うまくいっていない」、つまり「万事休す」の状態であるかのように錯覚してしまう。

 その結果、落ち込まなくていいタイミングで必要以上に傷つき、Aさんのように「なぜぼくの人生はうまくいかないことばかりなんだ!!」と感じてしまうのである。

「問題→悩み」の変換グセに気づこう

『思いどおりにいかない』と『うまくいかない』を区別する」──これこそが、「悩まない人」の思考アルゴリズムをインストールするための第一の原則である。

 この2つを切り分ける思考グセが身についていると、あらかじめ思い描いたとおりに事が運ばないとき、「これは思いどおりにいかなかっただけだ」と考えるので落ち込まなくなる。

 もちろん、思いどおりにいかないことは、だれにとっても不愉快である。
 その感情まで抑え込む必要はない。

 ただ、「思いどおりにいかなかっただけ。うまくいっていないわけではない」という認識があれば、一時的な思いに押し流されて、大きく傷つき悩むことはなくなる。

 冒頭の判別テストに掲げた「悩みとは『問題があること』である」という説明に「そのとおりだ」と感じた人は、おそらく「思いどおりにいかない」と「うまくいかない」を区別できていないはずだ。

 もしそうだとすると、目の前に問題が現れたときに、それをいわば自動的に悩みへと変換してしまう「思考グセ」がついていると思ったほうがいい。

 問題の9割は「思いどおりにいっていない」だけだ。

 したがって、なんらかの問題が起きたことと、それを悩むこととのあいだには、何ら必然的な結びつきはない。問題があるからといって、それをくよくよ思い悩む必要はない。

 思いどおりにいかなかっただけなのだから、粛々と「次の一手」を考え、それを実行しさえすればいいのである。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)