アマゾン物流センターでは「絶望」すらできない…潜入記者が明かすトヨタとの決定的な違いPhoto:David McNew/gettyimages

ユニクロ、ヤマト運輸、佐川急便からトランプ信者の団体まで――。組織に潜入し実情を掘り起こしてきた「潜入記者・横田増生」が生まれたきっかけは、黎明期のアマゾンの物流センター(千葉県・市川塩浜)で時給900円で働くことだった。手本にしたのは、ルポライターの鎌田彗が1970年代、トヨタ自動車の期間工として働いた体験を基に書いた『自動車絶望工場』。高度成長期に書かれたトヨタの生産現場と、ネットバブルに踊った2000年代のIT企業の労働環境を比較して分かったこととは?
※本稿は、横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)の一部を抜粋し再編集したものです。

黎明期のアマゾン物流センターに潜入!
単純作業を繰り返して分かった企業秘密

 アマゾンの物流センターの潜入取材の時に、私が担当したのは、注文書に従って本を棚から取ってくるピッキング作業だった。1分に3冊探してくるというノルマを課せられ、中学校の体育館ほどの敷地を歩き回った。ピッキング作業の最初と最後には、パソコンにログインするため、1回あたりの作業効率が数値として表示される。たとえば、「今回のスピード 1.2冊/分」と出れば、目標に達していないのだから、もっとスピードを上げよ、という意味になる。1日8時間、黙々と歩く。

 そんな単純作業を繰り返したとしても、いったい何が分かるというのか、と訝る(いぶかる)向きもあるだろう。

 以下に私が見つけてきたことのいくつかを挙げよう。

 その一つは、アマゾンのアルバイトの秒刻みでの労務管理に加え、フリーロケーションといわれる物流センター内の在庫管理だ。本を扱う物流センターではそれまで、商品は書名の五十音順や出版社別、ジャンル別に分けられ、そこから探してくることが多かった。

 しかし、アマゾンの物流センターでは、棚に設けられた20センチほどの間仕切りの中に、てんでばらばらに本が並んでいる。コミックや語学書、児童書やポルノ本までまったく脈絡なく保管されていた。

 どうしてこうした商品管理が可能になったのだろうか。