7月末から8月初頭にかけての急激な円高、日本株安の動きに肝を冷やした方も少なくないだろう。この種の短期的な急変のタイミングを事前に予想するのは不可能だ。ただし、昨年11月の論考で日米金利格差の縮小と円高への揺れ戻しを予想して、次のように述べた。
「円高への揺れ戻しが起これば、現在大幅な円安効果で上振れている日本の輸出・グローバル系企業の業績から『円安効果』がある程度剥げ落ちるので、短期的には株価の押し下げ要因になる。しかし、そうした反落場面は押し目買いの好機になるだろう」(「米国の景気後退が始まる2024年、円相場と株価はどうなる?」2023年11月28日掲載)。
相場転換のタイミング予想は無理でも、可能性の高そうなシナリオを事前に想定しておくと、実際それが起こったときに冷静に対応できる。それが投資の大きな分岐点になったりするものだ。
今回の相場急変が1987年10月の米国のブラックマンデーに匹敵する急激なものになった背景には、海外のヘッジファンドやコモディティ・トレーディング・アドバイザー(CTA)など短期トレーディング筋が、為替相場での円ショート(売り持ち高)と日本株ロング(買い持ち高)を今年になって大きく積み上げていたことがある。それが米国景気の先行き後退を示唆する経済指標と7月末の日銀の金融政策の変更を機に、雪崩が崩れるように一気に巻き戻された(円買い・日本株売り)と考えられる。
7月末の日銀の政策変更は、量的金融緩和の段階的な縮小方針と短期政策金利の0.25%への引き上げを同時に発表するという点で、エコノミストの平均的な予想より半歩ほど前に進んだものだったが、それでも予想範囲内のことだ。しかし積み上がった雪が深ければ(投機的なポジションの積み上がりが大きければ)、小さな衝撃でも雪崩が起きる(手じまい・損切りが殺到する)。
今回の相場急変を経て、上記のような投機筋の短期的な円ショートへの傾斜は、大方解消された可能性が高い。それはシカゴ通貨先物市場(IMM)の非商業筋(投機筋)のドル円相場のネット持ち高の変化を見れば分かる。これは世界中の同種の持ち高の氷山の一角であり、7月2日には2021年以来で最大の円ショート2.3兆円になっていた。
それが7月下旬から急速に縮小し(手じまいの円買い)、8月13日からは規模はまだ大きくないが円ロング(円買い)持ち高に転じている。円安は時間をかけて進行し、円高は損切りの円買いを誘発して急速に進む。これは昔から繰り返されてきた円相場の特徴的なパターンでもある。