「PBR1倍割れ問題」に
上場企業がもっと危機感を持つべき理由
東証が「PBR1倍割れ企業」に改善要請を出したのは2023年3月だったが、それ以降、多くのPBR1倍割れ企業が改善策を発表してきた。日本企業もようやく資本コストを意識した経営に変わると期待した海外投資家が日本株市場に回帰し、昨年からの株価上昇の原動力になった。
上場企業が自社のPBRの水準を意識し始めたのは望ましいことなのだが、多くの企業の改善策が株主還元のような小手先の対策に集中しているのが気になる。もちろん現金の使い道がない企業が、株主還元を通じて余剰資本を株主に戻すこと自体は悪くないのだが、PBR1倍割れの根本原因は事業利回りが資本コストを下回っている低収益性だということを忘れてはいけない。株主還元だけではその根源的な対策になっていないのだ。
株主還元を増やすと一時的に株価が上がる傾向はあるが、金融理論では「株主還元は株主価値には中立」(いくつかの前提条件はあるが)というのが定説で、長い目で見ると利益やキャッシュフローの増大が伴わないと株価上昇の維持には限界がある。
また、最近の株価上昇でPBRが1倍を超えて安堵している企業もあるようだが、PBR1倍の水準の達成は、公開企業としての最低限の条件であって合格点ではない。より高いPBR水準を日本の経営者は目指すべきだ。最近のプライム上場企業全体のPBRはまだ1.3倍程度で、米国株(S&P500)の4~5倍と較べても、まだまだ低いという事実を直視する必要がある。
アクティビスト投資家の台頭
「低PBR企業」を狙うのが常道
PBRの低い日本企業にとって、もう一つ気をつけるべきなのは、アクティビストの台頭である。アクティビストはターゲット企業を決める際、収益性が低く、資本効率も悪く、株価が低い、つまりPBRが低い企業からまずアタックしてくるのが常道だ。株価を低いままに放置しておくことは、アクティビストに入り込む隙を作っているとも言える。
公開書簡で戦略の転換を促されたり、株主提案で株主還元を増やすよう要求されたり、場合によっては、株主総会で取締役の再任も否決される、もしくはアクティビスト側の取締役が選任されるというような事態に発展する可能性もある。一般の機関投資家も、アクティビストの株主提案の内容によっては賛成に回る事例も最近は増えてきている。欧米では大手企業であっても、アクティビストの主導でCEOが退任に追い込まれる例も起きているのだ。