脳がリセットされる
「『EMDR』という心理療法でも証明されていることですが、目を左右に動かすだけで、脳はリセットされるといわれています。つまり、ぐるぐると洗濯物がまわっている洗濯機を見ると眼球運動が起こります。すると脳が自然とリセットされ、気分が落ち着く。それが癒やし効果につながっているというわけです」
SNSでは、洗濯機と同様に、「乾燥機」や「チャーハンロボ」にも癒やされるという声を見かけた。「眼球運動」がカタルシスを起こすのであれば、なるほどそれも納得だ。
杉山さんは、洗濯機にはもう一つ「癒やされる」理由があると語る。
悩みやストレスから自然と解放
「洗濯機の動きは、いうなれば『予定調和』。想像通りの動きを繰り返しています。人間にとって、これはとても心地がいいのです。川のせせらぎを見ていると気分が落ち着くのと同じような効果がある。心地いいと感じる理想の動きを眺めているうちに、悩みやストレスなどからも自然と解放されていくのだと思います」
回転だけではなく、洗濯機が刻む一定の「リズム」や「水の音」も、「予定調和」の要素だ。仮に、水が一気にドバッと流れたり、アラートが鳴ってエラーが出たりするなどの想定外の動きが起きれば、癒やし効果はあまり得られないという。人間は、「想定外の動き」を「リスク」と感じるためだ。
洗濯機を長時間見る社会人男性は、「あり」なのだろうか。
「人間は悩む生き物です。特に現代は、年金、老後、介護など将来について悩みを抱えている人が多い。1日1回は脳をリセットすることは、非常に大切です。健全な行動だと思いますよ」(杉山さん)
新品の自分になっている
麒麟の川島さんも、もしかしたら肩身の狭い思いをしているかもしれない同志たちへ、力強いメッセージをくれた。
「まわる洗濯機を眺めることは好きな音楽を聴くことや映画を鑑賞することとなんら変わりません。もしその行為を理解せず、ましてや否定してくる人がいれば静かにその場を離れましょう。そして嫌な気持ちも衣服とともに洗濯機に入れてまわしてしまえば、また新品の自分になっています。お互いまわる洗濯機に幸せを感じられる人生で良かったですね」
実は記者は、洗濯機を長時間眺めて幸福感を得ていることに対し、多少の恥ずかしさみたいなものを感じていたのだが、なんだか心が晴れた気がした。
記者としては、洗濯機カタルシスを知らないあなたに、この喜びを伝えたい。あなたもまわる洗濯機で今宵、心を洗濯してはいかがだろうか。
(AERA dot.編集部・岡本直也)
※AERA dot.より転載