「あなたの会社はZ世代に嫌がられるような採用活動をしていませんか?」――そう語るのは、ワンキャリア取締役の北野唯我さん。「常に人手不足」「認知度が低い」「内定を辞退されてしまう」「外資系との給与差が開いている」といった多くの採用担当者、経営者の悩みを解決するため、北野さんが執筆したのが、著書『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』です。これまで属人的で全体像が見えなかった採用活動を構造化し、3000社以上の企業の採用支援実績、180万人の求職者のデータに基づいた「新しい採用手法」を紹介した一冊です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して紹介します。

業績が悪化したとき「人が辞めていく職場」と「人が踏ん張る職場」の決定的な違いとは?【3000社を採用支援したプロが語る】Photo: Adobe Stock

採用活動で最も重要なことは何か?

 私は仕事柄、採用に関して様々な業界の経営者やトップの方と話す機会がある。その際に「採用で一番重視すべきことは何か」と聞かれたら「企業イメージ」だと断言している。一度企業イメージが構築されると、それは採用において圧倒的なメリットとなる。
 採用の成果は、短期的には「オペレーション能力」で決まるが、長期的には「企業イメージが10割」と言い切ってもいい。勝ち続ける仕組みづくり=企業イメージの管理だからだ。

 さらに、企業イメージが強いことは、他の人事課題にも貢献する。人事の基本機能は「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の6要素あるといわれるが、企業イメージは、これらの人事の問題を間接的に解決する。

 たとえば、すぐに人が辞めるという「代謝」の問題にしても、企業イメージが強い企業であれば、問題はそれほど深刻にはならない。なぜなら、退職率が高くても、すぐに人を補填できるからだ。具体的には、人気ITメガベンチャーや外資系コンサルティングファームは離職率が通常企業より高い傾向にあるが、企業イメージが強いため、すぐにそのポジションは別の人で埋まる。

「売上はすべてを癒やす」という言葉があるが、「企業イメージは人事のすべてを癒やす」と言っても過言ではないほど、効果は絶大なのだ。

 三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、野村総合研究所(NRI)、サイバーエージェント、メルカリ、ボストン コンサルティング グループ、リクルートホールディングス……一般的に採用に強いといわれる大企業の中でも、さらに「とりわけ採用に強い」会社が存在する。これらの会社は規模も、業界も、ビジネスモデルも違うが、共通点は「企業イメージへの投資」を積極的に行っていることだ(この際の投資の定義とは、マスマーケティング等の金銭面のみの投資を指すのではなく、数ヶ年単位での人的リソースへの投資も含んでいる)。

理由① いい人を大量に素早く集められる

 なぜ、単なる「儲かる会社」ではなく、「儲かって、企業イメージが強い会社」であることが大事なのか。なぜ、いい人に来てもらうために、給与を上げるだけでは不十分なのか。この問いに対しては、「数字的な面」「感情的な面」の2つの答えがある。

 まずは「数字的な面」。企業イメージが非常に重要なひとつ目の理由は、採用の金銭的なコストを下げることができるからだ。

 商売の言葉に置き換えてみるとわかりやすいが、企業イメージが強いとは、
・いい素材(=人材)を
・大量に(=大人数)
・安く、素早く(=ライバル企業と比較すると安い外注コストで、かつ素早く)
仕入れられる状態だ。

 事業において、仕入れ力は、キモ中のキモであるのは言うまでもない。仕入れて、加工して、販売する。この事業のサイクルはどの産業でも同じだが、仕入れが一番の基本になる。仕入れが強いと事業は強い。組織も同じである。

 反対に、企業イメージが悪いと、この仕入れに困難が伴う。たとえるならば、常に「関税(追加の採用コスト)」がかかり、かつ「雑多な商品(=言葉は悪いが、本来採用すべきではなかった人材)」が自社に持ち込まれてしまう。
 大量のコストをかければ、人を集めることはできるものの、無駄で余分なコストがかかってしまう。そして何よりも時間を要する。これはビジネスとしては苦しい。

 企業イメージを語る上では、もちろん、求職者保護の観点も重要になる。かつては「企業イメージだけ良くて、労働実態はブラック」なケースもあった。しかし、現在では、情報インフラの整備が進み、労働実態がクチコミなどで可視化される時代になってきている。企業イメージ=企業の実態に限りなく近づいてきているのが現状である。

理由② 危機になると「お金」だけで人は動かない

 2つ目の理由は、「感情的な面」。企業イメージが大事である理由は、企業を粘り強い組織につくり替えるためでもある。
 人や組織は、ロマンとソロバンで動く。ロマン=企業イメージ、ソロバン=給与や待遇だと考えると、人、そして組織という車は高待遇や好条件、損得だけでも前に進むだろう。むしろ、どれだけロマンが強くても、ロマン「だけ」で数十年も引っ張っていくことは厳しい。

 では、企業が危機に陥ったときはどうか? 売上や利益が停滞したり、社内でトラブルがあったり……経営がうまくいっていないときこそ、ミッションやビジョンといったロマンが重要になる。

 企業が危機に陥る冬の時代、働く理由がソロバンだけの人はすぐに見切って出ていく。一方で「この困難を、自分が主導して乗り越えてやろう」「この会社のために、一肌脱ごう」と踏ん張ってくれる社員の原動力は、決して「お金」ではない。
 危機や変革のときにこそ、ロマンが会社を底支えし、社員たちの感情を動かすのである。

(本記事は『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』に加筆・編集したものです)。

北野 唯我(きたの ゆいが)
株式会社ワンキャリア 取締役 執行役員CSO
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に新卒で博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。米国・台湾留学後、外資系コンサルティングファームを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役 執行役員CSO。作家としても活動し、デビュー作『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版)など、著作の累計部数は40万部を超える。
ワンキャリアは2021年10月、東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場。累計3000社以上の企業の採用支援実績があり、累計180万人の求職者に利用されてきた。新卒採用領域の採用プラットフォーム「ONE CAREER」は2020年から4年連続で日本で2番目に学生から支持され、東京大学、京都大学の学生の利用率は95%となっている。