ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、パリジェンヌ流「最高の自分になるための神習慣」を提案したのが、著書『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』。かつて痩せることに時間と労力を費やし、「痩せればいろいろなことを解決できる」と頑なに信じていた著者。しかし、多くのパリジェンヌと出会った今、その考えは根本から間違っていたと言います。パリジェンヌのように自身と向き合い、心身のバランスを整える習慣を日々実践することで、自分らしい美しさと自信を手に入れることができるのです。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように幾つになっても魅力的に生きる秘訣をお伝えします。

それぞれの「目安ジーンズ」
ルイ・ヴィトン本社にはいろいろな格好の人がいます。スーツの人もいれば、カジュアルな服装をしている人もいます。ジーンズで出勤する人だってもちろんいます。けれども広報部でPR達が全員示し合わせてジーンズをはいてきた日は、後にも先にもこの日だけだったと思います。
ソフィアはストレート・ジーンズで登場しました。スラリとした彼女によく似合っています。研修生のリサは裾広がりのベルボトム・ジーンズをはいています。お気に入りなので、同じものを3本持っているそうです。ファニーは足首に向かって細くなるテーパード・ジーンズをカッコよくはきこなしています。
ジーンズといっても、実にいろいろです。けれども「目安ジーンズ」と言うだけあって、誰もが一様に腰まわりがピッタリのジーンズをはいています。そのため、それぞれの体型が浮き彫りになっているのです。
痩せている人、そうでない人。足が長い人、そうでない人。お尻が大きい人、そうでない人。当たり前のことかもしれませんが、ジーンズもいろいろなら、体型も実にいろいろです。
それでも共通項があるのを私は見逃しませんでした。みんなお尻のラインがきれいなのです。そして痩せ型の人も、そうでない人も引き締まっており、腰まわりのお肉がはみ出るなどということがないのです。
更に私が驚いてしまったのは、誰もが「自分に似合うジーンズ」をよく心得ているということです。「マイ・ジーンズ自慢」をしていただけあって、みんな自信に満ち溢れた顔をしています。
私はといえばその日、持ち合わせのジーンズをはいてきましたが、それはとても自慢したくなるような代物ではありませんでした。そしてお尻まわりが気になって仕方がない私はダブダブのセーターを着て隠していました。
ヤスミナが教えてくれたこと
改めて周りを見てみると、みんなの賞賛を集めているのは、私が常日頃から「細くて羨ましい」と思っていたソフィアではなく、私が理想のスタイルだと憧れている上司のジュリエットですらなく、ジュリエットのアシスタントをしているヤスミナです。
「シンデレラ体重」からはほど遠い、どちらかといえばふくよかなヤスミナです。その彼女がピタピタの黒いジーンズにジャケットを合わせています。それがとてもお似合いなのです。
「素敵ね!」
思わず声に出すと、ヤスミナは言いました。
「母親から譲り受けた、大切なジーンズなの」
ヤスミナのお母さんはモロッコ人です。国を飛び出して身ひとつでパリにやってきたその母親はスタイリストをしていると言います。彼女の生まれ育った環境ではとても珍しい職業選択だった上に、その母親はパリに来て相当苦労したと言います。肉づきの良い彼女は、ファッション業界でよく体型を揶揄されたと言うのです。
「カッコいいお母さんね!」
そう言うと、ヤスミナはとても嬉しそうです。そして母親が決して痩せようとしなかったこと。自分の体型に誇りを持っていたこと。自分らしさを保ち続けることに価値を見出していたことを話してくれました。
「そんな女性に私もなりたいの」
ヤスミナはそう呟(つぶや)くと笑顔で仕事に戻っていきました。
自分らしさを大切にするということ
自分らしい体型とは何か。自分らしいスタイルとは何か。そして自分らしい生き方とは何か。ヤスミナは、痩せることより、ずっと、ずっと大事なことをお母さんから教わっていたのです。
自分に似合わないジーンズをはき、ソフィアやジュリエットを羨んでばかりだった私は何か根本的なところから間違っていたようです。「痩せなきゃ」と焦る前にまず、自分に似合うジーンズとは何か、ゆっくり考えてみるべきだったのです。自分らしい体型とは何か、そして自分らしい生き方とは何か、きちんと見極めるべきだったのです。
パリジェンヌは自分の感覚を大事にします。それは裏を返せば、「他人はどうでもよい」ということになります。そして自分がどうありたいのか、いつもしっかり考えています。
自分との付き合い方がとても上手なのです。