クリティカルシンキングを
「批判的思考」と言い出したのは誰か?
筆者が早稲田大学ビジネススクールにおいてクリティカルシンキングをテーマとした授業を担当して、今年で20年目となる。ロジカルシンキングやネゴシエーションなど、題材を変えながらも、一貫して考え、実践したこと、それは「クリティカルシンキングへの誤解の払拭」である。
本稿では誰もが聞いたことがありそうな、クリティカルシンキングに関し、筆者が大きな誤解だと考えていることについて述べていきたい。大げさに聞こえるかもしれないが、イノベーションの創出を目指す組織、個人にとって、クリティカルシンキングは必須のスキルと信じている。ぜひ、リラックスして読んでいただきたい。
これまで、数え切れないほどの人に「クリティカルシンキングとは」との問いを投げかけてきたが、見事なまでに同じ答えが返ってくる。そう、「批判的思考」である。いったい誰が「批判的思考」と言い出したのか、と恨み節を吐きたくなるほど、このわかりやすい5文字の悪影響は計り知れない。
もちろん、「批判的思考」という言葉が諭してくれる、「人から聞いた話、マスコミが伝えていることなどを鵜呑みにするな」という考え方を否定するものではない。一旦立ち止まって、「本当かな?」「前提は正しいのかな?」「何を根拠としているのだろう?」などと、チェックの目を持って他者の発信を吟味することは大切だろう。しかし、クリティカルシンキングの本質はそこではない。
では、クリティカルシンキングに関する2つの「誤解」と、それに関する考え方の「アップデート」について述べていこう。
【誤解1】
クリティカルシンキング=
他者の意見を鵜呑みにせず、批判的に吟味する
クリティカルシンキングの第一の誤解は、その吟味の矛先が他者であることだ。クリティカルシンキングのプロセスにおいて最も重要でかつ困難なのは、自分自身の認知・思考の癖を知り、意図的にそれらから解放された状態で認知・思考を行うことだ。この「認知・思考の癖」は、「先入観」とも言い換えることができる。