規制がイノベーションを促進?
経営の例外的な因果関係メカニズム
JRや郵政の民営化などを代表として、政府が規制を緩和する時の目的の一つにイノベーションの促進が挙げられることがある。多くの規制緩和は民間の自由な経済活動によって新たな事業や製品の開発を促進し、イノベーションを起こそうとして行われる。
一方、規制は民間の経済活動を制限するものであり、社会的に妥当な目的があったとしてもイノベーションは制約されるであろうという考え方は、それほど違和感はないだろう。むしろ、政府による厳しい規制がむしろ民間企業のイノベーションを促進すると言ったら、驚かれるのではないだろうか。
社会の複雑な因果関係を解き明かそうとする経営学という学問では、一般的な理解とは異なる逸脱事例を見つけ、そのメカニズムを解き明かすことで今までの理解とは異なる例外的な法則性を見出すことがよくある。規制がイノベーションを促進するというのも、そうした例外的な新たな因果関係のメカニズムのひとつとして実際に存在している。
経営戦略論の研究者として著名なハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授は1990年代の初頭に、ある種の環境規制は、むしろ民間企業による技術開発活動を刺激し、イノベーションが起きやすくなるという、環境規制に関するポーター仮説と呼ばれる仮説を提起した。
この仮説のポイントは、環境規制によって環境保護に関する具体的な目標値が設定されると、イノベーションの方向性が規定され、企業が目指すべき技術開発の方向性が明確になり、より効率的にイノベーションを起こすことが可能になるということと、こうした厳しい環境規制を早期に実施した国や地域の企業ほど新たなイノベーションに早く適応することができるので、結果的にその他の国よりも競争優位を確立しやすくなるということだ。
このように考えると、環境規制は単に企業に環境保護に対する負担を増加させるだけでなく、イノベーションの誘発によってより大きな利益を企業にもたらす可能性があるという考え方ができる。