新規事業の将来予測に抗い
「ある偉人」が発した言葉とは
事業会社において新規事業がたいがいうまくいかないとみなされてしまうのはなぜなのでしょうか。これについて少し考察を試みたいと思います。
本稿のタイトルの副題として挙げた「未来は、予測できないが、創ることはできる」という一文は、パーソナルコンピュータの父とも言われるアラン・ケイが、ゼロックス(XEROX)社のパロアルト・リサーチ・センター(PARC)に属していたときに言った言葉とされている“The best way to predict the future is to invent it.”の和訳です。
そこで、どこかにこの言葉の痕跡が残ってないか、と思いサーチしていたところ、ありました、YouTubeに。アラン・ケイが、2018年の米国のNational Library of Medicine(国立医学図書館)での1時間ほどの講演(その講演のタイトルがまさに、この言葉)でご本人が、“… is something I said with frustration back in 1971 at a meeting with some XEROX planners…”と明確におっしゃっています。
つまり、「さかのぼって1971年のことだが、XEROX社の経営計画の担当者たちとの会議で、苛立ちながら発した言葉」のようです。
XEROX社のような大企業でこの手の会話がなされる状況は、非常に典型的です。本社の経営企画部門は「予測」を過度に求めてしまいがち。また、XEROX社のこの経営企画部門の担当者たちは競争相手であるIBMの動きも意識して、アラン・ケイに「PARCはどうするんだ」と迫っていた模様です。
ここで問題となっているのは、大企業の意思決定のあり方でしょう。経営企画部門は、新たな研究開発に関しても、既存事業と同様に将来のキャッシュフローの予測を求めてしまいます。でもそれは、基本的に無理難題です。PARCが求められている野心的な研究開発であれば、なおさらのことです。
ですので、研究開発側にいるアラン・ケイはこの言葉を発して抵抗を示したと言えます。