「15本くらい連続で柵越えするんですよ。しかも500フィート(152メートル)以上、飛んでいたように見えました。『こいつは何者なんだ!』と興奮しました。息子も私も目の前の光景が信じられなかった。二人とも一瞬でとりこになりましたよ」

強迫観念さえ感じる

 大谷の野球カードや、球場で入場者に配布される大谷グッズを集め始めた。敵地での試合も、大谷が打席に立つと、家族でテレビで食い入るように見る。故障や不振に苦しむ大谷を他のエンゼルスファンが批判するたびに、「健康だったらすごいんだ」と言い返した。

 けがが完治してシーズンを通しての二刀流が期待されていた21年は、初日から大谷のユニホームを着て球場に通った。大谷は、そんなスミスさんの想像をはるかに上回る活躍を見せた。

 同年5月6日のレイズ戦では、大谷の第10号本塁打を、持参したグローブでキャッチした。その歓喜の瞬間をとらえた映像は、エンゼルスのハイライト動画の一部として繰り返し球場で流された。それを見る度に興奮がよみがえったという。

「あんなに幸せな気分は人生で幾度と味わえません。あれ以来、大谷のホームランを捕ったり偉業に居合わせたりするチャンスを逃したくない、という強迫観念さえ感じています」

 スミスさんの席があるライトスタンドは、大谷がよくホームランを打つので、いつも混んでいると言う。

「大谷が打席に立つたびに、いつも動画を撮っています。周りのファンもみんなカメラを向けます。トラウトもすごいですが、あまりにそつがないところが逆につまらないと感じることもあります。大谷の場合、ピッチャーもしているのに、毎回、単なるヒットではなく一発を狙っています。だから面白いんです。観客がみんな固唾(かたず)をのんで見守り、スイングするたびに歓声が上がったりため息が漏れたりします。あんな光景は見たことありません」

 スミスさんも、クラブチームで野球をする息子にとって大谷は良いお手本だと話す。

「野球は『失敗のスポーツ』です。だから感情をコントロールして、次のプレーだけを考えるよう息子に教えてきました。大谷の振る舞いは本当に素晴らしい。あれだけ活躍できる理由の一つです。大谷が怒っている姿を私は見たことがありません。心の中でどう思っているかは分かりませんが、それを出しません。失敗してもすぐに気持ちを切り替えるのが誰よりも上手です」