大谷翔平の専属通訳であった水原一平は、違法賭博などのスキャンダルで解雇された。その事件は日本のみならず、アメリカでも衝撃を与えたが、水原の仕事ぶりはいかなるものだったのか。大谷の番記者であるサム・ブラム、ディラン・ヘルナンデス、志村朋哉が明かす(取材は水原の逮捕前に行われた)。本稿は、サム・ブラム、ディラン・ヘルナンデス、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
大谷とわずかな交流をしただけで
アメリカ人記者の心は動いた
志村朋哉(以下、トモヤ) クラブハウスなどフィールド外での大谷選手について、印象に残っているエピソードはある?
サム 彼がどんな人間で、どんなことを考えているのか、ほとんど明かしてくれないのは、逆に彼を興味深い人間にしている。多くのファンが大谷の人間性について何も知らないのは、彼がいかにメディアと話したり関わる機会が少ないかということ。でもファンの人たちは、大谷のプレーを見られれば、それで満足している。あれだけの活躍をしていれば、メディアに話そうが話すまいが関係ないからね。
エンゼルスを取材していて気づいたのは、いかに大谷がチームメイトに愛されているか。普通、大谷のようにメディアに対応しないで、代わりに周りが毎日のように大谷についての質問ばかりを受けるような状況だったら、嫌がる人も出てくると思う。でも、エンゼルスでの大谷に限って言えば、そんなことはなかった。
記者への接し方についていえば、彼は軽い挨拶をするような時ですら、タイミングを選んでいると感じる。普段は僕らが存在すらしていないような扱いだから。日本語で「こんにちは」と「さよなら」を学んで、彼が通りかかった時に使ってみたことがある。そしたら振り向いて笑い出したんだ。他の選手には近寄っていって普通に話すことができるけど、大谷はあまりにもちゃんと交流する機会がないから、そうしたわずかな人間同士としての交流にも感動したよ。大谷は選手なんかには普通の人として接するけど、僕らメディアとは、よほどのことがないと交流しようとはしない。
だからこそ彼が接してくれた時は感動した。職業柄、普段から近くにいる野球選手を見て緊張したり特別な気持ちを抱いたりはしない。でも大谷が僕の「さよなら」という日本語を聞いて、「パーフェクト」と言った時は、「よし、彼を感心させたぞ!」と喜んだよ。