10年総額7億ドル(約1015億円)という大型契約で今季からドジャースに移籍した大谷翔平。彼のストイックさについては数多く報じられているが、実際、番記者たちもその行動には舌を巻くばかりだという。彼らが「ありえない」と語る大谷翔平の凄さとは。アメリカの番記者であるサム・ブラム、ディラン・ヘルナンデスが、日本人記者の志村朋哉へ明かした。本稿は、サム・ブラム、ディラン・ヘルナンデス、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
メジャー初完封を達成した
40分後の試合で2ホームラン
志村朋哉(以下、トモヤ) 2023年の大谷は、シーズン最後の1カ月を欠場しながらも、WAR(編集部註:打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標)でメジャー1位の10を記録するという異次元な活躍だった。この年の大谷で最も印象に残ったことは?
サム 打撃は素晴らしかった。でも僕は、毎日プレーし続けようとする姿勢が最も印象に残った。フィル・ネビン(監督)に何度も尋ねたよ。「今日は休ませなくていいのか?」と。エンゼルスが大谷をトレードしないと決めた直後の、(7月27日の)デトロイトでのダブルヘッダーでは、大谷は第1試合に先発してメジャー初完封を達成した。その40分後の第2試合では、2本のホームランを打った。さすがに痙攣を起こして、4回で交代したけど。でも翌日は、トロントに移動して、またスタメンで出場した。ポストシーズン争いをしていたから出場したいという気持ちは分かるけど、さすがに人間である以上、「これは絶対に無理だ」と思ったよ。
8月23日に肘の靭帯を損傷した時も、レッズとのダブルヘッダーで、第1試合に登板した。2試合目が始まる前には、2度目の手術が必要かもしれないことが判明していた。彼のフリーエージェントとしての価値は不透明になり、キャリアの方向も変わるかもしれない。手に入れるはずだった数億ドルが消えたかもしれない。それなのに、彼はどうしたと思う?第2試合に出場したんだ。すでにチームはプレーオフ争いから離脱していたから、なんの意味もない試合だったのに。
僕には彼があそこでなぜ出場したのか理解できないし、彼の考え方の根本を本当の意味では理解できないと思う。全く意味のないことであっても野球のグラウンドに立ちたいという必死さなのかもしれない。オフにフリーエージェントになるのだから、できる限りいい契約を勝ち取るためにも、休んで健康状態をとどめたいと思うのが普通だと思う。無事にシーズンを乗り切るだけっていう選択もできたけど、彼はそうする人間じゃないんだ。チームをプレーオフに導くために自らを犠牲にすることを厭わずに何でもする。賞賛に値するよ。僕にはとてもできない。だからこそ、彼は7億ドルを稼ぐ。
「彼女を作れ、人生を楽しめ」と言われても
寮生活を続けた日本ハム時代
ディラン 僕は東京オリンピックの準備状況を取材するために、19年にも日本に行った。大谷が野球一筋だという話を聞いた時、僕は「ありえない。何か裏があるに違いない」と疑いの目で見ていたんだ。