気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。同書の発売を記念した本稿では、暴力団取材のエキスパートであるライターの鈴木智彦氏が、財を成した暴力団員の「終活」に迫る。(取材・文:鈴木智彦、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)
増え続ける「ひとり組長」
高齢者ヒットマンと破れかぶれの精神で抗争を戦えても、若さのない「若い衆」ばかりでは勢いがない。暴力団冬の時代もあって、かつてのような経済力も維持できない。
今までは老舗一家の総長にでもなれば、黙っていても金が転がり込んだ、が、もはや老舗の看板にあぐらをかいているだけでは飯が食えない。
内実、廃業スレスレの組織がかなりある。歴史のある名門一家ですら金に詰まって破綻する。
儲からない斜陽産業に人材は集まらないため、三次、四次団体をみると、若い衆のいない「ひとり組長」も増えている。
実数は分からぬが、取材の実感でいえば、おそらく「組長」と呼ばれる半分が若い衆を持っていないはずだ。
若い衆の自殺に「ニコニコ」
相応の若い衆が在籍していても、金儲けのうまい若い衆がいなければ上納金は集まらない。金がなければ、人も寄ってこない。悪循環から抜け出せず、自殺を選ぶ組長はかなりいる。
東京の繁華街に事務所を持っていた某組織の理事長(※関西でいう若頭。組織のナンバー2)が自殺したとき、私は組織のトップである会長と渋谷で飯を食っていた。野球賭博で大きな借金を作ったらしい。返せなくなって拳銃を咥え、引き金を引いたのだ。
他の若い衆が携帯に電話をかけてきて、自殺した理事長のバッグに100万程度の現金が残っていたと知った会長は「あいつ、まだけっこう金を持ってたんだな。これで今月はどうにかなった」とニコニコしていた。
彼には奥さんがいたが、親分は自殺した理事長の所持金さえ上納金として奪い取る気らしい。死を悼む言葉は一切なかった。暴力団にはこんなサイコ野郎がごろごろいる。
姐さん対組織暴力
自転車操業の組織では、親分が死んだ後、金で遺族と揉めるケースが年々増えている。
その一例として、組事務所の不動産相続がある。所有権が親分個人なら、土地や建物を相続するのは血族である正妻や実子だ。親分・子分の疑似血縁制度は民事訴訟でいっさい認められない。
暴力団が金回りのいい時代なら後継者が代金を払い、遺族から買い戻せば済む。が、今はその金がなく事務所を失う。賃貸契約には必ず暴力団排除条項があり、騙し討ちで借りてもすぐに追い出される。将来を見据えて、幹部たちの共同名義にしている組織もあるが、それも揉め事の材料になる。
「任天堂創業家」が組事務所跡地を……
京都市五条楽園にあった会津小鉄会の巨大な組事務所は、分裂騒動で所有権トラブルが顕在化し、結局、売却せざるを得なかった。
その後不動産会社を転々とし、最終的に跡地を買ったのは、花札作りから会社を興した任天堂の創業家だ。
「運を天に任せる」という法人名を捨てない会社の創業家に買われたのだから、博徒たちも満足だろう。