葬儀の参列は「正妻」のみ

 暴力団の「家族」は血族だけに限らない。

 極端な男尊女卑の世界であり、愛人がいるのは男の甲斐性とされるだけに、正妻のみならず数多くの女性と関係を持っている。

 親分は「オヤジ」だが、その配偶者や愛人は、すべて「姐さん」と呼ばれる。若い衆は親分の女すべてを「姐さん」と呼べばいいので、その点だけは楽である。

 ただし呼び方は同列でも、正妻&愛人間の力関係には明確な順列が存在する。そもそも暴力団は順列に異常なこだわりを見せる業界だ。組織にはトップから末端まで全員に順列が付けられており、自分が誰の下で誰の上か、即座に判別出来るようになっている。

 女性もそうで、2号さんは正妻に、3号さんは2号に頭が上がらない。親分に対して強いことが言えるのは、圧倒的に正妻である。

「奥さんだけが、オヤジに『いつまでも若い衆を引き連れて歩かず、さっさと寝せてあげて』と言ってくれる。他の女性が同じことを言ったらもめ事になると思う」(指定団体トップのボディガード) 

白衣の天使が見せる「裏の顔」

 親分が高齢化しているので、奥さん連中もまた相応の年齢の女性たちである。かつて中間クラスのサイコパス組長たちは頻繁に女を取り替えていたが、最近はあまり聞かない。

 ホステスやデートクラブ嬢が暴力団員と恋仲になるのは、一種の職場恋愛だろう。看護師の女性も多い。そういった職業でない限り、生活圏の中に暴力団がいるケースはあまりない。

 看護師の姐さんは、堅実に金を稼ぐため、実質、一家の大黒柱になっていたりする。そもそも極道の女房をしようと思うなら、1円の生活費すらもらわない覚悟が必要だ。なにしろ彼らはいつなんどき長い懲役に行くか分からない。服役中は一切の稼ぎがないので、姐さんは、必然的に自立を余儀なくされるのだ。

死に目に「さよなら」も言えず

 暴力団に対する風当たりが強い現在は、その家族もまた様々な公的扶助が受けられない。子どもがいれば当然もらえる手当ももらえない。

 そのため、実際は夫婦関係を維持していても、形の上では離婚するケースが増えている。正妻という特別な地位が消滅するわけだが、それでも親分が死亡した際、正式な葬儀に列席できるのは、序列のトップにいる女性だけだ。

「最後のお別れくらいはしてもらうよう、我々若い衆が気を遣う。時間をずらして棺の前でお別れをしてもらうが、参列するのは無理だ」(独立組織二次団体幹部)

 若い衆の気苦労は最後まで絶えない。

鈴木智彦(すずき・ともひこ) 
1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに転身。実話誌、週刊誌を中心に、幅広くアウトロー関連の記事を寄稿している。著書は『サカナとヤクザ』(小学館)、『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)、『ヤクザと原発』(文藝春秋)など多数。