気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。同書の発売を記念した本稿では、暴力団取材のエキスパートであるライターの鈴木智彦氏が、合法、非合法問わず大金を稼ぎだした暴力団員たちの老後に迫る。(取材・文:鈴木智彦、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

【まるで自民党】「迫力ゼロ」の老害親分、お茶汲みも「還暦組員」が…。高齢化が爆速で進むヤクザ社会のゾッとする実態どの業界も長老たちが幅を利かせているようだ(Photo: Adobe Stock)

大物親分も「後期高齢者」

 暴力団には定年がない。だから死ぬまで辞めなくていい。

 代紋頭――暴力団組織のトップが後期高齢者なのはもはや当たり前だ。

 日本最大の暴力団である山口組の司忍(つかさ・しのぶ)組長は82歳、稲川会の清田次郎総裁は84歳である。住吉会の故・西口茂男総裁は、2017年に88歳で死ぬまで、業界最年長のドンであり続けた。

 権力闘争を勝ち抜き、ピラミッドの頂点である親分の椅子に座れば、人生が終わる瞬間まで既得権を手放さずに済む。年金や保険はないが金の心配もない。

 今の暴力団トップは「若い衆」がシノギで、上納金だけで食える。支配層は悪事に手を染める必要もなく、安泰に暮らせる。老後もまた金次第、特別困ったことにはならない。

「隠退」と「引退」

 元来は高齢者が少ない業界だった。新陳代謝が激しく、平均年齢も低かった。なにしろたくさんの兵隊蟻が必要で、チンピラの若者がたくさんいた。それに幹部になっても、殺されるケースがよくあった。

 裁判でも街のダニ同士が殺し合い、暴力団が減るのは好都合と考えられていたようで、一般人を巻き込まず、暴力団同士が殺し合う分には量刑が軽かった。

 今は抗争事件を起こすこと自体が社会秩序に対する挑戦と解釈され、暴力団員が暴力団員を殺しても、一般人同士の殺人よりずっと重い判決になる。

 それに斬った張ったの荒っぽい商売には、壮年の気力・体力が不可欠で、老いた人間に務まる稼業ではなかった。親分たちは適当な年齢で代目を譲った。

 そのため、トップの座を禅譲した「隠退」と、足を洗ってヤクザを辞める「引退」がはっきりと区別されていた。

 それも今や昔の話で、子分たちが悪さをして集めた金を徴収するのに気力や体力はいらない。親分たちは黄金の卵を産み続ける黒いガチョウを手放さない。