気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。同書の発売を記念した本稿では、暴力団取材のエキスパートであるライターの鈴木智彦氏が、合法、非合法問わず大金を稼ぎだした暴力団員たちの介護事情に迫る。(取材・文:鈴木智彦、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

「シモの世話」も身内で済ませ、「高級老人ホーム」には入れない。ヤクザたちのいびつな家族観とは?若い時から身体介助が当たり前だ(Photo: Adobe Stock)

「老人ホーム」は入れない

 映画『仁義なき戦い』の元になった手記を書いた元暴力団員・美能幸三(みの・こうぞう)は、『週刊サンケイ』の担当者に片手を拡げて見せ、「引退後はこれだけあればなんとかなる」と嘯いたという。5000万円かと思って確認すると5億で、担当者は暴力団との金銭感覚の違いを思い知ったらしい。

 暴力団の支配層は今も莫大な資産を持っている。それだけの金があれば、介護が必要になっても困ることはないだろう。

 ただし、高級老人ホームに入ったという話はさほど聞かない。おそらくホーム側も事前に断るのではないか。暴力で他人の頭を押さえつけ、不当な圧力で金儲けをしてきた人間たちだ。我が儘放題の不良入居者になるのは目に見えているし、何しろ他の入居者が嫌がる。

 とはいえ、暴力団にも地縁血縁はあるし、裏社会で培った特別なパイプもある。コネを使って入居した老人ホームでひっそりと死ぬ元ヤクザは想像以上にいるはずである。老人ホームの話を耳にしないのは、暴力団に妙な価値観があるからかもしれない。

「シモの世話」も身内で

 たとえば名前の知られた親分連中になると、ほとんど風俗店に行かない。

「金を払わないと、抱ける女もいないのかよと言われてしまう。あまりかっこいい話じゃないし、愛人を囲う甲斐性もないのかと馬鹿にされるね。介護生活も同じ。金を払わないと面倒を見てくれる人間がいないのかとなる」(在京団体の幹部)

 前時代的封建主義と、思いやり皆無の家族観だが、暴力団はこうした見せかけの愛情が可視化されている状態を尊重する。