この日の午前中、田中はNECグリーンロケッツのチームメイトに、今シーズン限りで現役を退く旨を初めて伝えた。来シーズンからは、チームのスタッフとして、アカデミーなどの育成を担当することが決まっていた。
引退会見のサプライズ演出が
着々と陰で進んでいた
まずは仲間たちへの報告を済ませた田中は、チームのGMでもある太田治とともに新宿へと向かった。午後4時からはメディア向けの引退記者会見が、新宿ヒルトンホテルで予定されていたからである。
引退の発表がこの日になったことに、田中は何の関与もしていない。4月24日でなければならない理由があったのは、マネジメント会社の社長である柴田の方だった。
「その日が松田力也(編集部注/2019W杯日本代表、パナソニックワイルドナイツで田中とともにプレー。田中の伏見工の後輩)の唯一のオフだったんですよ。その日しか、空いてなかった」
当初、柴田はまったくのラグビー門外漢だった。ただ、ひょんなことからラグビー選手に契約交渉の手伝いを頼まれたことをきっかけに、どんどんとラグビーのクライアントが増えていった。
田中史朗、松田力也もそうした選手の1人だった。
田中の引退発表に当たり、チーム側とともに会場の設定に動いた柴田には、ちょっとした思惑があった。