「田中史朗が引退しました。記者会見やりました。終わりました……だと、報じる側としても面白みがないんじゃないかと思ったんです。何かサプライズを仕込んでおけば、取り上げていただけるチャンスも増えるかなと」
義理堅い田中は、この日の午前中にチームメイトに引退を伝えるまで、家族と柴田以外には誰にも伝えていなかった。
だが、サプライズを仕込みたかった柴田は、まず松田に「絶対にナイショでお願い」と念押しした上で、田中が引退することを伝え、ついてはその発表の席に参加してもらえないかと持ちかけた。
同じマネジメント会社に所属しているとはいえ、松田は田中とは別チームの選手である。まだシーズンが終わっていないことを考えれば、他チームの選手が引退会見に出席することはほぼありえないのだが、田中も元チームメイトだったこともあってか、所属チーム側は「練習がオフの日であれば」との条件で松田の出席を許可してくれた。
予想を上回る約100人の
報道陣が詰めかけた
それが、4月24日だったのである。
柴田にはもう1人、サプライズで来てもらいたい選手がいた。ただ、その選手は松田のように柴田の会社に属しているわけでもなければ、4月24日、練習がオフだというわけでもなかった。それでも、駄目元でチームに、そしてその選手が所属するマネジメント会社に打診したところ、こちらも快く許可を出してもらえた。