写真:岡本武志
2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップでチームを牽引し、日本代表初のベスト8入りに貢献した姫野和樹選手。2021年は、ニュージーランドの名門チーム・ハイランダーズに期限付き移籍し、世界最高峰リーグ・スーパーラグビーに参戦し“ルーキー・オブ・ザ・イヤー(新人賞)”を獲得するなど、その活躍はとどまるところを知らない。姫野選手が世界に飛び立った本当の理由とは――。本稿は、姫野和樹『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』(飛鳥新社)の一部を抜粋・編集したものです。
ミスも失敗も「良いこと」
2019年ワールドカップの初戦、ロシア代表戦。僕はナンバー8で先発で出場した。
日本で開催される初めてのワールドカップ、その開幕戦であり日本代表の初陣ということで、満員に膨れ上がったスタジアムの興奮と熱気は凄いことになっていた。
その熱気と大歓声を浴びながら、試合が始まった。
ところが試合開始早々のファーストタッチで、僕はボールを前に落としてしまった。“ノックオン”というラグビーでは一番小さなミスが出た。
ところが、その小さなミスのせいで出鼻をくじかれた日本代表は、そこから負の連鎖が起きてしまう。日本代表がモタついている間に勢いに乗ったロシア代表に先制を許す、という苦しいスタートになってしまった。
失点に直結したわけではないが、原因は明らかに僕のミスだった。
初めての大舞台、4万5000人の熱気と視線の中で、知らず知らずのうちに緊張していたのかもしれない。緊張で体の反応が遅れたことがミスの原因の1つだが、一番の原因は、僕自身のメンタルにあった。
完全にはメンタルコントロールができていなかったのだ。
試合開始前の国歌斉唱で僕は泣いてしまった。メンバー23人全員で肩を組んで『君が代』を歌っている時、僕は自然と涙を流していたのだが、振り返ってみると、それが良くなかった。
メンタルを上げ過ぎてしまったのだ。メンタルが高揚し過ぎてしまうと、極端に視野が狭くなってしまう。視野が狭まると、普段は見えているものが目に入らなくなる。余裕がなくなる。普段しないようなプレーをしてしまうから、ミスが生まれる。
ただ、ロシア戦の時の僕は、一番初めのプレーでミスをしたことで逆に吹っ切れた。
「ミスしてもいいやん。オレがどんどん前に出たほうがチームも勢いが出るはずだ」
すぐに立ち上がって、メンタルを切り替えた。
ミスが起きた時には、こんなふうにすぐに立ち上がってスイッチを切り替え、次にフォーカスすればいい。ただ、その時に、しっかり考えなければいけないことが1つある。
「この失敗を繰り返さないために、次はどうすればいいのか?」
ミスや失敗は、それ自体が悪いのではない。
同じミス、失敗を繰り返してしまうことが良くないのだ。
自分の中でミスが起きた原因を理解して、次の機会では、同じミスを繰り返さないように準備しなければならない。その準備こそが成長だ。
ロシア代表戦後、冷静になったところで自分自身をレビューしてみて、試合直前にメンタルを上げ過ぎてしまったことが原因だとわかった。そうであれば次の試合では、メンタルを上げ過ぎない工夫をしたり、普段よりもより一層注意深く、自分のメンタルの状態を意識すればいい。
この試合では上手くいかなかったが、自分をコントロールするためには、メンタルを「上げ過ぎない」ことがとても大事だ。
上げ過ぎてしまうと前述のような不具合が起きやすいからだ。でもだからといって、フラットなままでも、良いパフォーマンスは出せない。
高過ぎず低過ぎずパフォーマンスを一番発揮できる、「自分にとってベストなメンタルレベル」を掴んでおく。
そして、試合前や本番直前、その一番良い状態に自分で作り上げていく。これはスポーツでなくとも、例えば仕事のプレゼンや就職などの面接でも同じかもしれない。
僕の場合、試合前には必ず音楽を聴いてメンタルを作る。特に好きなアーティストはいないのだが、“聴く順番”にはこだわりがある。
まず最初に、一度、メンタルを「上げる」。ケイティ・ペリー、ブルーノ・マーズ......といったアップテンポで激しめの洋楽を中心に“UP”用プレイリストを作ってあるので、それを聴いて、メンタルをフラットな状態から高ぶらせる。
そして、一度しっかり上げたところで、それを抑え込むように「落ち着かせる」。“DOWN”用のプレイリストもあって、当然そちらは静かな穏やかな選曲。お気に入りは竹内まりやさんの『元気を出して』、『アメイジンググレイス』や『ゲド戦記』の主題歌『時の歌』あたりだ。ラグビーの試合前に『アメイジンググレイス』を聴いているのは僕くらいかもしれない。
こうして心を整えることで“普段通り”でいやすくなるのだ。
「失敗したい」から「誰も知らない場所に」
僕がハイランダーズに加入することにしたのも、実を言えば失敗したかったからだ。
「失敗しないと学べない」
「失敗をするために、今のこの環境から抜け出したい」
そう思っていた。
トヨタというチームに大きな不満があったわけではなくて、トヨタ、そして日本の整った環境に居続けようとしてしまう僕自身に不満があったのだ。
現状、トヨタにいれば僕は100%試合に出ることができる。チームメイトとも長年一緒でお互い理解度も高いので、プレーしていてもストレスがない。専用のグラウンドやトレーニングルームも整備されて、クラブハウスもいつだってキレイだ。
日本にいれば、探さなくとも美味しいご飯が食べられるし、友人ともすぐに会える、遊びにも行ける。僕にとって、これ以上、居心地のいい場所はないだろう。
だが、そういう環境ではもうこれ以上、大きく失敗しない。思い切り失敗したくても、できない。







