15時50分、柴田の携帯電話を鳴らしたのは「いま、新宿ヒルトンに到着しました」という松島幸太朗(2015および2019W杯日本代表として田中とともにプレー。両選手は大の仲良しとして知られる)だった。彼は、練習を終えたその足で田中の引退会場まで駆けつけたのである。
記者会見は16時から予定されていた。日本代表の定宿でもあった新宿ヒルトンの担当者は、間違っても田中本人とサプライズの2人が鉢合わせしたりしないよう、考え抜かれた動線と控室を用意してくれていた。
引退会見の会場には、60人程度と踏んでいた柴田たちの予想を上回る、100人程度の報道陣が詰めかけた。引退の実感はどうか。リーグワンのレベルはあがっているか。すぐにコーチになるのか――顔なじみの記者だけでなく、普段はラグビー会場では見かけない顔からも質問が飛んだ。30分程度を予定していた記者会見は、15分ほど押した。
ここからが、柴田の腕の見せ所だった。
「記者会見は田中のものであると同時に、NECグリーンロケッツのものでもあるので、そこに他チームの松田選手や松島選手が加わるっていうのは御法度なんです。じゃあどうするか。会見を終えて、まず田中とGMの2ショットでフォトセッションをやってもらう。それが終わったあと、今度は田中一人でポーズを取る。このタイミングであれば、チームに迷惑をかけることもないかなと」