ひばり伝説の1つに、笠置シヅ子がひばりのデビュー時に「自分のブギを歌うな」とクレームをつけたというものがある。有名なエピソードだ。1948年の初対面のとき2人はたしかにいい出会いだった。そのとき笠置は、ひばりが自分のモノマネでブギを歌っていたことを温かく見ていたはずだ。
それが後になって天才少女に嫉妬したという単純な話なのか、それとも他に何か事情があったのか……、いろんな疑問が湧いてくる。
60年も前の話だが、この伝説の何が虚で何が実か、どんな状況の中でどういう理由だったのか、もっと詳しく調べてみよう。正確かどうかは別として、そのエピソードを喧伝する多くの資料はひばり側にあった(笠置の資料にはひばりに関する談話や記述などの記録がほとんどない)。
笠置側がひばり側に出した“クレーム”は2回ある(笠置側から考えると“申し入れ”だが)。最初は2人が出会った3カ月後の翌1949年1月で、ひばりが念願の日劇に出演することになったときのこと。日劇は、戦後に建てられた横浜国際劇場とは数段格上の大劇場である。