ひばりは灰田勝彦主演の「ラブ・パレード」で笠置の新曲「ヘイヘイブギー」を歌う許可を求めたが(当時から歌手の持ち歌制度はあり、歌手が興行で自分の持ち歌以外の曲を歌う場合は著作権者の許可が必要だった)、笠置と服部側はひばり側に「ヘイヘイブギー」ではなく「東京ブギウギ」を許可した。

 笠置がなかなか許可しなかったという話がさまざまに伝えられているが、事実としては、ひばりは曲目を変更させられただけで「ブギを歌うな」と言われたわけではない。

ブギの女王は美空ひばり伝説を
いろどる“悪役”と化した

「ヘイヘイブギー」は前年に公開された大映映画『舞台は廻る』の挿入歌で、レコードも発売されてまだ日が浅かったことを考慮すると、変更させられたことがとくに理不尽とも思われない。

 またこの時期、笠置はすでに黄金期のベテラン歌手で、舞台から舞台、映画の撮影、マスコミのインタビュー、歌のレッスン・吹き込みなど、次から次と超多忙なスケジュールだった。前年に横浜国際劇場の楽屋で紹介されて写真を一緒に撮った無名の少女を、笠置がすぐに思い出すほど覚えていたかどうかも疑わしい。

 当時の美空ひばりはまだデビュー前で、その才能の有無は別として、まだまだそういう存在だったことを頭に入れておく必要があるだろう。