連日パワハラについて報道されています。上司からすれば「部下に注意・指導したい……でも、強く言いすぎただけでパワハラになるのかな?」と不安に思ったり、部下からすれば「自分は部下だから、どんな理不尽な指導でも、全部受け入れなければいけないのかな」など思ってしまったりしますよね。そんなあいまいな「パワハラ」と「指導」の境界線をはっきり教えてくれるのが『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)です。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。本書では職場でよくあるハラスメントのケースを85の具体的な事例とともに紹介。これを読めば「令和時代のハラスメントの常識」がしっかり身につきます。管理職、リーダーはもちろん、組織に所属する人は誰もが読むべき1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介します。
パワハラは「証拠」が重要!
パワハラは企業側や個人で予防していたとしても起こる可能性があります。その際重要になるのは、「証拠」です。
加害者であっても、被害者であっても客観的な証拠の有無が重要になります。
本書では主に加害者になる場合を想定して書いていますが、どの立場の人でも被害者になる可能性があるため、ここでは被害者になった場合を想定して記載します。
もし被害者として会社から事情を聴かれる場合には、次のような具体的内容を説明できるよう、準備しておくとよいでしょう。
●パワハラを受けた日時、場所
●周囲の状況
●やり取りの内容
さらに、この説明を裏づけるEメールや音声データなどがある場合は、これも一緒に提出すれば、会社は申告内容をより真剣に取り扱うようになります。
その後の事実調査もかなりスムーズとなり、早期解決が望めるでしょう。
もしパワハラの被害申告を考えているのであれば、ふだんからパワハラ行為の具体的内容を記した備忘録を作成し、それぞれに関連する証拠も取っておくことも大切です。
証拠を準備しておくということは極めて重要です。
パワハラのように当事者かぎりで行われる事象は、一方の申告のみで正しく事実を認定することは極めて困難で、裏づけとなる証拠の有無が決定的となることはめずらしくありません。
証拠として一番役に立つのは「Eメール」
そして、客観証拠としてもっとも有用なのは、「Eメール」です。
Eメールは、その当時なされたやり取りの日時や内容がすべて可視化されており、極めて有力な証拠となる場合が多いです(この点、録画や録音を推奨するWEBサイトなどもあるようですが、そもそも録音・録画自体が容易ではないことや、録音・録画は実務ではかなり使い勝手が悪いことから、あまり推奨しません)。
あとあとの被害申告を行うことを考えると、次のようなEメールを送信しておくと、非常に有用と思われます。
●パワハラの相手方に対して具体的な行為を記した上で、やめてほしい旨を伝えるEメールを送信しておく
●同僚や友人や親族に、パワハラ被害を具体的に記載して相談するEメールを送信しておく
「パワハラ被害に遭っている」と感じたときに、何より大切なのは、「証拠を確保する冷静さ」です。
感情的になるのではなく、「パワハラの証拠」をしっかり記録、保管しておきましょう。
※『それ、パワハラですよ?』では、部下に言ったら一発アウトになる言動など、職場のハラスメントに関する知識を事例をもとに徹底解説。令和時代のハラスメント常識が身につき、部下と上司の心理的安全性が高まる1冊です。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。