上司の承認を得たり、部下に仕事を進めてもらったり、お客様にお買い上げいただいたり……ビジネスにおいて「相手の理解を得て、相手に動いてもらう」ことは必須のスキルです。そこで、多くのビジネスパーソンは「理屈で説得しよう」と努力しますが、これが間違いのもと。
なぜなら、人は「理屈」では動かないからです。人を動かしているのは99.9999%「感情」。だから、相手の「理性」に訴えることよりも、相手の「潜在意識」に働きかけることによって、「この人は信頼できる」「この人を応援したい」「この人の力になりたい」という「感情」を持ってもらうことが大切。その「感情」さえもってもらえれば、自然と相手はこちらの意図を汲んで動いてくれます。この「潜在意識に働きかけて、相手を動かす力」を「影響力」というのです。
元プルデンシャル生命保険の営業マンだった金沢景敏さんは、膨大な対人コミュニケーションのなかで「影響力」の重要性に気づき、それを磨きあげることで「記録的な成績」を収めることに成功。本連載では、金沢さんの新刊『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)から抜粋しながら、ゼロから「影響力」を生み出し、それを最大化する秘策をお伝えしてまいります。(初出:2023年12月23日)

「親切なのに嫌われる人」が無意識でやっている“残念すぎる失敗”とは?【書籍オンライン編集部セレクション】写真はイメージです。 Photo: Adobe Stock

「ギバー」に徹する

「返報性の原理」という言葉をご存じの方も多いと思います。
 これは、相手に対して何らかの価値あるものを提供することで、相手が自分に対して報いなければならないと強く感じることです。

 相手が「報いなければならない」と思っている心理をテコに、その人にこちらが思うような行動を自主的にとってもらえる可能性が高まるわけですから、「影響力」について考えるうえで、極めて重要なものだと言えるでしょう。

 では、相手に「返報性」を感じてもらうにはどうすればよいのか?
 非常にシンプルなことです。相手が望んでいることを叶えたり、相手が困っていることを解決したりすればいいのです。

 もちろん、力及ばず、希望を叶えたり、困り事を解決できないこともありますが、そのために時間と手間をかけることだけでも、相手は「その労に報いたい」と思ってくれるでしょう。大切なのは、相手のために貢献しようとすること、すなわち「ギバー(Giver)」であることに徹することなのです。

「親切なのに嫌われる人」が、
無意識でやっていること

 ただし、「ギバー」であるのは簡単なことではありません。
「ありがた迷惑」「親切の押し売り」という言葉があるように、こちらが勝手に「相手によかれ」と思い込んでいるだけで、相手の気持ちを置き去りにしたまま、何かを施して「あげよう」などという姿勢で「ギブ」すれば、迷惑を通り越して嫌悪感をもたれる結果を招くだけでしょう。自分では「親切なつもり」なのに、思うように人望が集まらない人、どうも嫌われてると思う人は、こんな失敗を無意識のうちにやってしまっているのです。

 そのような愚行を避けるためには、何はさておき「何かをしてあげる」「何かを施してあげる」「助けてあげる」などといった、“上から目線”を自分の心のなかから一掃することです。この世に、“上から目線”で接する相手に好意をもつ人はいません。これを一掃しない限り、何をやっても嫌われてしまうに決まっていると思うのです。

 それよりも、純粋に「楽しさ」を追い求めればいいと思うのです。
 相手に何かを「ギブ」することで、相手が心から喜んでくれたり、満面の笑顔を見せてくれたりしたら、誰だって嬉しいですよね? 相手が喜んでくれたことで、自分という存在に自信がもてますよね? そんなハッピーな感情を純粋に追い求めれば、自然と「ギバー」へと成長し、結果として「影響力」を増していくことができるのだと思うのです。

「親切なのに嫌われる人」が無意識でやっている“残念すぎる失敗”とは?【書籍オンライン編集部セレクション】金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府生まれ。早稲田大学理工学部に入学後、実家の倒産を機に京都大学を再受験して合格。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍、卒業後はTBSに入社。スポーツ番組などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。2012年よりプルデンシャル生命保険に転職。当初はお客様の「信頼」を勝ち得ることができず、苦しい時期を過ごしたが、そのなかで「影響力」の重要性を認識。相手を「理屈」で説き伏せるのではなく、相手の「潜在意識」に働きかけることで「感情」を味方につける「影響力」に磨きをかけていった。その結果、富裕層も含む広大な人的ネットワークの構築に成功し、自然に受注が集まるような「影響力」を発揮するに至った。そして、1年目で個人保険部門において全国の営業社員約3200人中1位に。全世界の生命保険営業職のトップ0.01%が認定されるMDRTの「Top of the Table(TOT)」に、わずか3年目にして到達。最終的には、TOTの基準の4倍以上の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReeboを起業。著書に『超★営業思考』『影響力の魔法』(ダイヤモンド社)。営業マンとして磨いた「思考法」や「ノウハウ」をもとに「営業研修プログラム」も開発し、多くの営業パーソンの成果に貢献している。また、レジェンドアスリートの「影響力」をフル活用して企業の業績向上に貢献し、レジェンドアスリートとともに未来のアスリートを育て、互いにサポートし合う相互支援の社会貢献プロジェクト「AthTAG」も展開している。■AthReebo(アスリーボ)株式会社 https://athreebo.jp

「自己犠牲」をしてはならない

 ただし、2つほど注意しておきたいことがあります。
 第一に、「ギバー」であることと、「自己犠牲」とは全く違うということです。

 そもそも人間は、「自分の適正利潤」を確保しなければ、生きていくことはできませんから、それを得ようとするのは全く間違ったことではありません。相手に「ギブ」するときに、「自分の適正利潤」もちゃんと考慮に入れていいのです。

 むしろ、自分のために頑張れない人はダメです。自分のために頑張れない人が、人のため、周りのためにも頑張る「ギバー」になることはできません。まず、自分が満たされ、自分がハッピーでなければ、「ギバー」になどなれはしないのです。

 というよりも、僕は、「自分の適正利潤」をきちんと主張しない人を信用することができません。
 もちろん、「ちょっと席を譲る」とかそういう類の“ちょっとした親切”なら、「自分の適正利潤」などをいちいち考える必要はありません。純粋な親切心でやればいい。だけど、それなりの労力がかかることを「ギブ」するときには、その裏側になんらかの「自分の適正利潤」があるのが当然だし、それを明示したほうがいいと思うのです。

「タダほど高いものはない」という真理

 たしかに、広い世の中には、本当に「無私」の人格者がいらっしゃるのかもしれませんし、そういう方が実在すれば、僕は心の底から尊敬します。だけど、それで生きていくことがどれほど過酷なことであるかは、ちょっと想像すればわかること。そんなだいそれたことは、常人にはとてもできっこないのです。

 ところが、なかには「自己犠牲」的な装いをしながら、“善人”っぽい雰囲気で近づいてくる人もいます。こちらにとってのメリットはわかるのですが、その人にとっての「利益」がわかりにくいのです。

 僕は、こういう人に対して不審の目を向けずにはいられません。「タダより高いものはない」という言葉がありますが、まさにそれ。「タダでいいよ」と商品をもちかけてくる人は、必ずあとで何かをふっかけてくるに決まっている。そうでなければ、人は生きていけないのだから、それが当然のことでしょう。

「自分の適正利潤」を明示する人のほうが信用される

 だから、僕は、「自己犠牲」的なことを言う人よりも、「自分の適正利潤」を明示している人のほうが信用できます。「なるほど、あなたはそういう“利益”がほしいから、僕にこんな“ギブ”をしてくれるんですね」と納得できるからです。

 もしも、相手が求める「利益」が過大だと思えば、僕はそれを指摘して調整してもらおうとするでしょう。あるいは、相手と僕の間では「いい話」であっても、第三者や社会にとって「利益」のない話であれば、それも調整してもらうでしょう。そういうコミュニケーションを取ることができれば、お互い納得できる「互恵的な関係性」を築くことができるはずなのです。

 実際、僕は営業マン時代、多くのお客様にさまざまな「ギブ」をしましたが、同時に、僕は「保険屋として成功したい」とはっきりとお伝えしていました。もちろん、僕はお客様に「保険を売ろう」とはしませんでしたが、「僕の夢」や「僕の利益」については明示していたのです。

 だからこそ、僕が「ギブ」したことを喜んでくださったら、僕から保険に入ってくださったり、僕に知人をご紹介してくださるなど、なんらかの「お返し」をしてくださった。そして、このように、お互いに「ギブ」し合うことで、多くのお客様と永続的な人間関係を育んでいくことができるようになったのです。

「長期的」に成功する人と、
「一時的」にしか成功しない人の違いとは?

 ここで2つ目の注意点があります。
 それは、「ギバー」ではない人に、「ギブ」してはならないということ。要するに、「ギブ」をするならば、相手を選ぶべきだということです。

 僕は、世の中には2種類の人間がいると思っています。
「テイカー(Taker)」と「ギバー」です。「テイカー」とは、「自分の利益のためだけに、人から奪おうとする人」。一方、「ギバー」とは、「人に利益を与えると、自分にも与えられることを知っている人」です。

 つまり、「テイカー」とは「返報性の原理」が働かない人物ですから、そのような人に「ギブ」をしても奪われるだけ。付き合ってはいけないのです。僕自身、「テイカー」のお客様に何度も「ギブ」をして、心身ともに消耗したことがありますから、自然と、両者を嗅ぎ分ける嗅覚が研ぎ澄まされていきました。そして、「ギバー」とのみお付き合いするようにしてきました。

 僕の観察するところ、世の中で長期的に成功されている方はみなさん「ギバー」です。おそらく、多くの「ギバー」と互恵的な関係性を築くことで、成功の基盤を分厚くされているからではないかと思います。

 一方、「人から奪う」ことで利益を得ようとする「テイカー」は、一時的に成功することはあっても、長期的に持続することはほとんどありません。なぜなら、奪える人から奪い尽くしたら、次の奪える人を探すわけですが、それは“焼畑農業”と同じことで、いずれジリ貧にならざるを得ないからです。いや、それ以前に、「犠牲者」や「敵」を多く作り出すことから、社会的に存在が許されなくなると言えるのかもしれません。

「テイカー」と付き合うのをやめれば、
それだけで「人生」は一変する

 そして、一番「損」をしているのが、「テイカー」と付き合って、一方的に奪い取られている「ギバー」です。
 これまで、僕はそういう「ギバー」を何人も見てきましたが、いつも歯がゆい思いをさせられました。“成功”する「テイカー」は、一見魅力的な人が多いのですが(詐欺師にも一見魅力的な人が多いそうです)、それにコロッと騙されているのです。

 これは、あまりにももったいない。そういう人が、「テイカー」と付き合うのをやめて、「ギバー」とだけ付き合うようにすれば、人生は一変するはずです。その人の人生に「返報性の原理」が稼働することで、「ギブ」すればするだけ「豊か」になるというサイクルが回り始めるからです(この記事は、『影響力の魔法』の一部を抜粋・編集したものです)。