変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。
昭和型の組織文化の限界
昭和時代から日本企業に根強く残る「終身雇用」や「上意下達」の文化は、安定した経済成長の時代には機能しましたが、現在の多様性と変化の激しい環境には適応しづらくなっています。かつて主流だった「指示を出す側」と「受ける側」というタテの関係に基づく支配型のチームは大幅に減少し、今後は、業界や部門の垣根を超えて多様なプレイヤーが連携するヨコの関係で成り立つ共創型のチームが中心の時代へと変わります。
上下関係を重視する昭和的な組織では、上司からの一方的な指示が強調され、社員が自由に意見を出す機会が限られています。ビジョンや目標も上層部が一方的に設定するケースが多く、その結果、メンバーが組織のビジョンに共感できず、働く意欲が減退してしまいます。
こうした硬直した組織文化が、優秀な人材の離職を招く一因となっており、日本の従業員エンゲージメントが世界的に低い理由の一つとしても指摘されています。昭和型の組織文化が残る企業が、いかにして変革するべきかが問われる時代です。
共創型チームで重要なビジョンの共有
今後、組織が変化に対応し、持続的に成長するためには、メンバーと共にビジョンを「共創」するスタイルへの変革が鍵となります。従来型の組織が「一方向の通達」と「厳格な制度整備」を重視する一方で、共創型のチームでは「双方向の対話」や「最低限の原則」に基づく自律的なチーム運営が行われます。メンバーとビジョンを共創し、進むべき方向性をチーム全員で共有することで、メンバーは自分の価値観をチームの目標に重ね合わせやすくなり、自律的に行動できるようになります。
文化祭やスポーツの大会を思い出してみてください。仲が良いかどうかに関わらず、一致団結して取り組むことで、チームに特別な一体感が芽生えた経験はありませんか?このように、チームが共通の目標を共有することが、各メンバーのやりがいやエンゲージメントを高めるのです。
ビジョン共有の場づくりと対話の継続
共創型チームを成功させるには、メンバー間の対話が欠かせません。たとえば、定期的に集まる場を設けて、メンバー同士が自分のビジョンや目標について語り合う時間を持つと、チームの一体感が高まります。このような場では、各メンバーが「なぜこのプロジェクトに関わりたいのか」「会社で成し遂げたいことは何か」などについて共有し、それが組織全体のビジョンと結びつくことで、チームの一体感もより一層強固なものとなるでしょう。
また、多様性に富んだチームでは、無理に一つのビジョンにまとめる必要はありません。むしろ、対話の中でお互いの価値観を理解し、共感することから始めるべきです。ビジョンが変わったり、チームの方向性に対する意欲が低下した場合には、メンバーの交替やチームの解散も適宜検討することが重要です。
柔軟なチーム編成を行い、価値観の共有を重視することで、メンバーは自分のビジョンに合った場で働くことができ、組織に対するエンゲージメントも高まります。
アジャイル仕事術では、ビジョンを共創する方法をはじめ、変化に柔軟に対応できるように働き方をバージョンアップする方法を多数紹介しています。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。