2022年3月9日に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家である。
その平尾氏と対談するのは、シニフィアン株式会社共同代表の朝倉祐介氏。東京大学在学中にネイキッドテクノロジーを設立。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てミクシイに入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績回復を達成する。その後、スタンフォード大学客員研究員をはじめ様々な分野で活躍。『ファイナンス思考』の著者としても知られている。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第4回は、『起業家の思考法』の中心となる概念「別解力」について、日本の企業社会にどのようにすれば受け入れられるかについて話が深まった。
(構成 新田匡央 写真 株式会社じげん・津田咲)
マーケットがあってはじめて成長できる
平尾丈(以下、平尾):よく、若い起業家の方たちから、こんな相談を受けるんです。
「マネタイゼーションどうすればいいですか」
「サブスクがいいんですか」
私は、事業において収益型のモデルは正直あまり成功には関係ないと思っています。世の中は「三角形」だと思っていまして、当たり前ですが、マーケットという土台があって、その上にサービスがあるわけです。BtoBでもBtoCでも、自分が提供するサービスに対して、お客さまが価値を感じてない限りは、継続的に利用していただけないわけです。
だから、まずはマーケットや提供価値という分母の上に、自分たちのサービスや収益といった(分子)がないと、会社は成り立ちません。それなのに、三角形を逆三角形に設計してしまった人に会うことが多い。マクロの中にミクロがあるわけで、マクロに逆らってはいけないわけです。それを踏まえたうえで、自分のサービスを設計すれば良いのではないかと思っています。
朝倉祐介(以下、朝倉):前回お話しした「地動説」という話と似ていると思います。よく経営者で「最年少上場したい」という人がいるじゃないですか。「その心意気や良し」ですし、それだけ成長スピードを上げたいということだと思います。でも、あなたが最年少上場するかどうかは、マーケットにはまったく関係ないし、どうでもいいことだという厳然たる事実を知っていなければなりません。
結局のところ、成長スピードを決めるのはマーケットです。もちろん、本人たちの頑張りもありますが、あなたたちの気合や根性で成長スピードは決まらないのです。それを勘違いしてほしくないと思いますね。
ただし、地動説ではあっても、何もしなくていいわけではなくて、あくまでも自分たちができるベストを尽くすべきです。丈さんが三角形の下のマクロという話をされましたが、ある程度規模が大きくなったときにはじめて、マーケットそのものを動かしてやろうという気持ちに応えるべきです。でも、そんなに簡単ではありません。
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィへの売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。2017年、シニフィアン株式会社を設立、現任。著書に、新時代のしなやかな経営哲学を説いた『論語と算盤と私』(ダイヤモンド社)(amazonレビュー54件、4.8/5点)『ファイナンス思考』(ダイヤモンド社)『ゼロからわかるファイナンス思考 ~働く人と会社の成長戦略~』(講談社)がある。
平尾:プラスサムのプラス分に対してテイクレートがあるという原理を超えなければならないのに、それを勘違いしている人が多いように思います。
マネタイゼーションに困っているのではなく、付加価値がどれくらい出ているかわかっていない。つまり、自分の介在価値を分母にしていないのです。それが明確になってはじめて、自社の価値や組織設計が決まっていくと思うんですけどね。
朝倉:それこそが、独りよがりのやり方ですよね。
平尾:日本と海外の起業家教育の差を感じています。テクニック論よりも、そのコンテキストのほうが大事ですよね。前回も話に出たPL脳も、べつにPLを揶揄しているわけではなく、対比として考えようという意味だと思います。3Cというフレームがあったときに、3Cを知っていてもあまり意味がなく、それをどういうふうに使うのかという知恵が実践経験で生きてくるものですよね。
つまり、概念の使い方まで浸透していない。それについては、起業家が行間を埋めなければならないのではないかと、自責の念を込めて感じています。
朝倉:起業家なのだから、自分で考えてほしいという思いはありますよね。そのテクニックは、はたして自分たちに合うのかと。