どんな種類のスキルの習得にも使える「ウルトラ・ラーニング」という勉強法が話題だ。このノウハウを体系化したスコット・H・ヤングは、「入学しないまま、MIT4年分のカリキュラムを1年でマスター」「3ヵ月ごとに外国語を習得」「写実的なデッサンが30日で描けるようになる」などのプロジェクトで知られ、TEDにも複数回登場し、世界の勉強法マニアたちを騒然とさせた。本連載では、このノウハウを初めて書籍化し、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった話題の新刊『ULTRA LEARNING 超・自習法』の内容から、あらゆるスキルに通用する「究極の学習メソッド」を紹介していく。(本記事は2020年12月6日公開した記事を再構成したものです)
数学の歴史を変えたインドからの一通の手紙
1913年の春、数学者のG・H・ハーディは、その後の生涯を決定づけた一通の手紙を受け取った。インドのマドラス港湾公社で働く経理担当者から送られてきたその手紙には、控え目な自己紹介とともに、驚くべき内容が書かれていた。
手紙の差出人は、当時最高の数学者ですら解いていなかった、数学に関する定理の解法を発見したと主張していた。
さらに彼は、自分が大学教育を受けておらず、独自の研究によってその結論を導き出したのだと説明していた。
風変わりなアマチュアが、数学上の有名な問題を解いたと主張する手紙を受け取るというのは、ハーディのような数学の第一人者にはよくあることだった。そこで彼は最初、この手紙もその同類だと考えて一蹴しようとした。
しかし、手紙に添付されていた、何ページにもわたるメモをめくっているうちに、そこに書かれていた方程式が頭から離れなくなった。
そして、自分が何時間も考え込んでいるのに気づいた彼は、同僚のジョン・リトルウッドに手紙を渡した。
2人がこの奇妙な主張について考察してみると、方程式の中には多くの努力を積み重ねた後に証明が可能だと判明したものもあれば、ハーディの言葉を借りれば「ほとんど信用できない」まま残されるものもあった。
もしかしたら、これは単なる変わり者からの手紙ではないのかもしれない。ハーディはそう考えるようになった。
手紙に書かれていた方程式は、あまりに奇妙かつ異質なもので、ハーディが「これは正しいに違いない。もしそうでないなら、こんなことを思いつく想像力を持つ人間など、いないだろうから」と表現したほどだ。
その日、ハーディが漠然と理解していたのは、彼が史上最も聡明で奇怪な数学者の1人に出会ったということだった。その人物こそ、シュリニヴァーサ・ラマヌジャンである。