「思い出す」が最強の戦略だった

 自分が期末試験の準備をしている学生だと思ってほしい。限られた学習時間をどう使うかについて、3つの選択肢がある。

 第1に、教材を復習することだ。内容を覚えられたと感じるまで、ノートや教科書を読み返して勉強し直すことができる。

 第2に、自分でテストをしてみることができる。教科書を閉じ、何が書かれていたか思い出してみるのだ。

 最後は、「概念マップ」の作成である。主な概念を図に書き出し、それらが他の概念とどう関係しているのかを整理するのだ。

 この中で1つしか選べないとしたら、試験で最も良い成績を取るためには、どれを選択するべきだろうか?

 これは、心理学者のジェフリー・カーピックとジャネル・ブラントが、学生の学習戦略に関する研究において提起した問題だ。

 この研究では学生を4つのグループに分け、同じ学習時間の中で「1回だけ教科書を読み返す」「何度も教科書を読み返す」「学習内容を自由に思い出す」「概念マップを作成する」という別々の学習戦略を行うように指示した。

 また、各グループの学生に対し、次の試験で自分が何点取れそうかを予想させた。

 すると、何度も教科書を読み返すグループが、得点が最も高くなると予想し、その次に1回だけ教科書を読み返すグループ、概念マップを作成するグループと続いた。

 学習内容を自由に思い出すグループ(教科書を見ずにできるだけ多くの内容を思い出そうとした学生)は、自分たちの成績が最悪になると予想していた。

 しかし、実際の結果は、予想とはまるで違っていた。教科書を見ずに情報を思い出す、つまり自らにテストを課すことが、他の戦略よりも優れていたのである。

 教科書の内容と直接性がある問題では、教科書を見ずに思い出す戦略の被験者たちは、他のグループよりもおよそ50パーセント多く記憶していた。

 「学習において何が重要か」という点について、何年間も直接経験してきたはずの学生たちが、実際には何が結果を生むのかについてこれほど見当違いをしてしまったのはなぜなのだろうか?

 このような自己テストの優位性は、成績の測定方法が生み出した人為的な結果であると考えたくなるかもしれない。

 評価の方法が違えば、復習や概念マップの戦略を採用したグループの方が上位にくるのではないか、と考えるのは妥当だろう。

 しかし、興味深いことに、カーピックとブラントは他の実験において、この説が正しくないことを証明している。こちらの実験では、学習後に学生が課せられた試験は、概念マップの作成であった。

 にもかかわらず、概念マップの作成を学習戦略とした学生のグループよりも、教科書を見ずに学習内容を自由に思い出す戦略のグループの方が、良い成績を残したのである。

 自己テストが機能する理由として、もう1つ考えられる説は「フィードバック」である。何かを受動的に読み返してみても、自分が何を理解していて、何を理解していないかのフィードバックは得られない。

 しかし、テストからはフィードバックが得られる。自己テストを行った学生が、概念マップの作成や受動的な復習を行った学生よりも成績が良かったのは、それが理由かもしれない。

 フィードバックに価値があるのは事実だが、「回想」(思い出す)の利点は、単にフィードバックが増えることだけではない。

 前述の実験では、学生たちは自由に学習内容を思い出すように求められたが、何を忘れているか、あるいはどこを間違っているかに関するフィードバックは与えられなかった。

 記憶から知識を呼び出そうとする行為は、直接的な学習やフィードバックとのつながりを超えて、それ自体が強力な学習ツールなのである。

 学習に対するこの新しい視点は、なぜ定理のリストだけでその解説のなかったカーの本が、それをマスターしてやろうという十分なモチベーションを持つ人物の手に渡ったとき、数学に秀でるための素晴らしいツールになり得たのかを説明してくれる。

 答えを与えられなかったラマヌジャンは、問題に対する自分自身の解法を編み出すことを余儀なくされ、本を読んで復習するのではなく、自分の頭の中から情報を引き出すしかなかったのだ。

 (本原稿は、スコット・H・ヤング著『ULTRA LEARNING 超・自習法』〈小林啓倫訳〉からの抜粋です)