どんな種類のスキルの習得にも使える「ウルトラ・ラーニング」という勉強法が話題だ。このメソッドを体系化したスコット・H・ヤングは、「入学しないまま、MIT4年分のカリキュラムを1年でマスター」「3ヵ月ごとに外国語を習得」「写実的なデッサンが30日で描けるようになる」などのプロジェクトで知られ、TEDにも複数回登場し、世界の勉強法マニアたちを騒然とさせた。本連載では、この手法を初めて書籍化し、ウォール・ストリート・ジャーナル・ベストセラーにもなった話題の新刊『ULTRA LEARNING 超・自習法』の内容から、あらゆるスキルに通用する「究極の学習メソッド」を紹介していく。

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「転移」が起こらないという学校教育の不都合な事実

 転移の問題は、「教育における聖杯」とまで呼ばれている。

 転移とは、何かをある状況で学んだときに(授業を受けるなど)、それを別の状況(普段の生活など)でも使えるようになることを指す。

ULTRA LEARNING』は、「語学」や「試験」だけに使える学習メソッドではない。画力の向上やプレゼン、ゲーム開発、文章力など、あらゆるスキルアップを目指せる「究極の万能メソッド」なのだ。

 これは技術的な話に聞こえるかもしれないが、転移はほぼすべての学習行為において期待されていることだ。そうでなければ、その行為を学習と呼ぶのは難しい。

 とはいえ残念なことに、1世紀以上にわたって熱心な研究が行われているにもかかわらず、学校教育において転移はほとんど実現されていない。

 心理学者のロバート・ハスケルは、学習における転移に関する膨大な文献をまとめた優れた論文の中で、次のように述べている。

 「学習の転移が持つ重要性にもかかわらず、過去90年間の研究結果は、私たちは個人としても、あるいは教育機関としても、顕著な形で転移を実現できていないことを明確に示している」

 そして彼は、「誇張でも何でもなく、それは教育におけるスキャンダルだ」とつけ加えた。状況は深刻だ。ハスケルは次のように指摘している。

 「たとえば私たちは、高校で教えられる初歩的な心理学から、大学レベルの心理学入門コースへと学習の転移が生まれるだろうと期待する。

 しかし、高校の心理学科を卒業して大学に入学した学生と、高校で心理学を履修しなかった学生の間に優劣が存在しないことは、何年も前から知られている。高校で心理学科に通ったのに、そうでない人より成績が悪い学生すらいるのだ」

 別の研究では、大卒者に経済問題について質問したところ、経済学の授業を受けた人とそうでない人の間で正答率に差は見られなかった。

 もっと別の研究に目を向ければ、転移が成功している例も見つかるのではないか、と思うかもしれない。

 しかし、認知科学の研究者であるミシェリン・チーによれば、「これまでほぼすべての実証研究において、例題で勉強した学生は、その例題からわずかに逸脱した問題すら解くことができない場合が多いという結果が出ている」

 また発達心理学者のハワード・ガードナーは、著書『The Unschooled Mind』(『教育を受けていない心』、未邦訳)において、「大学レベルの物理学コースで優秀な成績を収めている学生でさえ、基本的な問題について、それが正式な教育やテストを受けた際の内容とは少し異なる形で出題されると、解けなくなってしまう場合が多い」ことを示す数々の証拠を挙げている。