極悪女王「ダンプ松本」の誕生

 Netflix (ネットフリックス)で、この9月から『極悪女王』というドラマが配信されています。極悪女王とは、人気悪役レスラーのダンプ松本のこと。1970~80年代に一大ブームを巻き起こした女子プロレスの世界を描いたドラマです。ダンプ松本を演じるのは、お笑いタレントのゆりやんレトリィバァさん。その迫真の演技が絶賛されています。

 松本香(ダンプ松本の本名)はデビューしてからも人気が出ることなく、同期のクラッシュギャルズ(長与千種とライオネス飛鳥によるタッグチーム)が、そのベビーフェイスと相まって、アイドル的な人気でブレイクする中、もんもんとした生活を送っていました。

 気が弱く優しい性格の松本香は、その生い立ちも、周囲と比べてさまざまな面で恵まれていませんでした。マッハ文朱の大ファンで、問題山積みの父親に悩まされ続けた母の生活を助けるため、高校卒業後、全日本女子プロレスの門をたたきます。そして、20歳でデビューしてからも「私なんか」という“卑下慢”を心にためこんでいきました。その“卑下慢”が、ある日心の中で爆発し、当時大人気だったクラッシュギャルズへの強烈な怒り・憎しみへと変化していくのです。

 デビューから4年後、悪の権化のようなキャラクター「ダンプ松本」が誕生しました。ドラマでは、この内面の変化を、ゆりやんレトリィバァさんが絶妙に演じています。“卑下慢”は、一見すると謙虚な姿勢に思えますが、このように他者への攻撃的な感情へと変化する恐れがあるのです。

 なぜなら“卑下慢”は、しょせんうぬぼれやおごり高ぶりにすぎず、それは「怒り」「憎しみ」の原因でもあるからです。

 あるお寺の掲示板に「自慢は智慧の行き止まり」という言葉がありました(関連記事=第3回)。仏教でいう「智慧」とは、「ありのままに世界を認識すること」。煩悩である「慢」が生み出す「うぬぼれ」は、この世界で起きていることをありのままに認識することを妨げ、自己中心的な見方を促します。そうなると(自己中心的な視点からの)怒りや憎しみが心に湧き起こり、争いやトラブルが発生することになるのです。

 “謙虚”と“卑下慢”の違いは紙一重。「慢」心にはくれぐれも気を付けたいものです。