鳳林寺(静岡) 投稿者:@holyji [2024年7月5日]鳳林寺(静岡) 投稿者:@holyji [2024年7月5日]

朝の時計代わりに見る人も多いNHK連続テレビ小説ですが、女性初の裁判官である三淵嘉子を演じた伊藤沙莉さんの熱演に魅せられた人も多かったようです。人間、生きていれば必ず歳を取ります。「老いるショック」(みうらじゅん)に打ちひしがれる前に、「タイム・イズ・オン・マイサイド」、時を自分の味方につけてください。(解説/僧侶 江田智昭)

立派な出がらしになってくれたまえ

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が9月27日に最終回を迎えました。この言葉は主人公と恩師のやりとりの中で登場したセリフです。

 裁判官となった寅子(伊藤沙莉)の恩師で法学者である穂高重親(小林薫)は、女子教育を推進するなどリベラルな思想の持ち主でした。男尊女卑の社会から少しずつ脱却しようと動いていた穂高と、急いで変えなければと考えていた寅子の間でたびたび衝突が起こります。

 穂高の最高裁判事退任記念祝賀会という大変おめでたい場所でも二人は衝突してしまい、翌日、穂高は寅子のもとを訪れます。「私は古い人間だ。理想を口にしながら、現実では既存の考えから抜け出すことができなかった」と穂高は謝罪すると同時に、師として寅子に生涯最後のアドバイスを送ります。

佐田(寅子)くん、気を抜くな。君もいつかは古くなる。常に自分を疑い続け、時代の先を歩み、立派な出がらしになってくれたまえ。

 どんな人も必ず老い、考え方も必ず古くなります。古い考え方を周囲に押し付けようとする人には、しばしば「老害」というレッテルが張られます。ですから、どんな人も気を抜くと「老害」と呼ばれる可能性があります。逆に、「老害」というレッテルを簡単に他者に張りつけることができる人は、「自分も老い、いずれ老害と呼ばれる」ということへの想像力が欠けた人ともいえます。

四門出遊」というエピソードがあります。お釈迦様が城の東門を出た時に老人、南門を出た時に病人、西門を出た時に死者と出会い、自分自身もいずれこのような姿になるということに大変強いショックを受けました。そして、北門を出た時に出家者と出会い、その立派な姿に憧れて後日出家したのです。
 
 要するに、お釈迦様は生・老・病・死(四苦)の苦しみを越えるために出家したことを表したエピソードともいえます。人間は必ず老いて、病におかされ、死に至る。このことが、お釈迦様にとって切実な問題になった瞬間が、この「四門出遊」なのです。

 当時20代だったお釈迦様にも、これらの体験を通して、自分もいずれ老いるという想像力が強烈に働いたのでしょう。誰しも必ず日々老いていきます。それにもかかわらず、なかなかお釈迦様のような想像力を持つことは困難です。