「やりたい」という想いを、「やってみる」という実際の行動につなげる、着火剤のようなイモトアヤコさんの言葉

名言グランプリで取り上げるのは、スポーツの言葉以外にも、さまざまなジャンルのものがあります。例えば、昨年、タレントのイモトアヤコさんが自身のブログ『よかん日和』につづった言葉も、多くの人を前向きにさせるパワーにあふれたものでした。

「『やりたい、やってみたい』と『やってみた』では、天と地ほどの差があると思う」

イモトさんといえば、体をはった活躍で茶の間をわかせるキャラクターの印象が強いですが、そのチャレンジ精神を象徴するような言葉です。

名言グランプリを企画・運営する「伝え方研究所」が、昨年、イモトさんに直接、この言葉に込めた思いを伺っています。イモトさんの言葉です。

「やっぱり人は、行動することが大事だと思ってるんです。やってみれば、もしかしたら『違う』と思う可能性もあるし、でも、もしかしたら『楽しい』と思って続けることができるかもしれないですよね。やってみて違ったら、やめればいい話で、でも1回やるかどうかが、すごく重要なんじゃないかなと思います。
この言葉は、私にとっての人生の座右の銘みたいなところもあって、とにかく、とりあえず1回やってみる。1回やってみたら、そのあといろんな修正方法がわかってくると思うんです」

「やりたい」と口にしながら尻込みしたり、後回しにしたりしてしまう経験がある人は、少なくありません。そんな「やりたい」という想いを、「やってみる」という実際の行動につなげる着火剤のような、エネルギーを与えてくれる名言です。

コロナ禍、ニュージーランド警察が国民に外出自粛を呼びかけた際に発した名言

名言グランプリにノミネートされる言葉は、毎日のテレビ・新聞・ネットのニュースや雑誌、ラジオなどから選ばれています。結果として、その年の世相を反映した言葉が数多く含まれているのも特徴です。

2020年には、コロナ禍に関連した名言がありました。

「人類を救える。寝転んでTVを観てるだけで」

ニュージーランド警察が国民に外出自粛を呼びかけた際に発した言葉です。「人類を救う」という壮大なミッションを背負ったヒーローらしい言葉と、「寝転んでテレビを観る」という怠け者のような言葉の対比がとてもユニーク。世界中で「ステイホーム」の呼びかけがなされましたが、「いかに行動を促すか」という目的にかなう印象に残りやすい伝え方という点では、この言葉は頭ひとつ抜きんでていました。

また、2021年にノミネートされた次の言葉も、社会的なできごとに関するものでした。

「多額の現金をお持ちで、息子さんやお孫さんとお待ち合わせのお客様!! 伝言がございます。駅の事務室へお越しいただき、駅係員にお声掛けください」

これは京急電鉄の北品川駅に張り出された紙に書いてあった言葉です。お気づきの通り、特殊詐欺の被害をふせぐために掲示されたものです。

詐欺の被害者の中には、「私に限ってだまされるはずがない」と思っている人が少なくないそうです。そうした心理を読み、あえて「詐欺」の文字を入れずに「伝言があります」という伝え方に置き換える工夫がなされた名言です。これで自ら窓口に出向いてくれる人が増えたのだとか。コロナ禍の名言と同じように、こちらも目的の行動を促す「機能的な名言」と言えると思います。

言葉の素晴らしい可能性を感じさせる、戸田奈津子さんの名言

このように、言葉には、聞いた人の行動を変える、潜在的なパワーがあります。日本を代表する字幕翻訳家の戸田奈津子さんの次の名言も、言葉の可能性を感じさせるものでした。

「想像力さえあれば、太古でも未来でも、宇宙にだって行ける」

この言葉は、2022年の名言グランプリで第1位に輝きました。想像力ひとつで、どんなに離れた場所や時代へも飛んでいくことができる、そんなワクワク感が魅力的です。

『E.T.』や『タイタニック』、『ミッション・インポッシブル』など、誰もが知る作品を含む映画の字幕翻訳をこれまで1500本以上、手がけてきた戸田さんですが、日本語の字幕セリフを考える際に大切にしているのが、この「想像力」なんだそうです。伝え方研究所が戸田さんと直接お話しした際に、彼女はこう語りました。

「映画っていろんな題材があるけども、要は想像力でしょう。役者は人殺しもやれば、お金持ちの結構な身分の人も、ぜんぶ自分の想像力で演技してるわけでしょ?
俳優さんはね、体を使ってそれを表現する。私は俳優じゃないから、言葉で、セリフで、表現するんです。一人の女の一生で体験できることはわずかだけど、その俳優さんと同じように、太古人にもなれれば、宇宙飛行士にもなれるじゃないですか」

ちなみに、コトバをつかう字幕翻訳という仕事をなりわいとするいわば「コトバのプロ」としての人生をおくってきた戸田さんに、コトバとの向き合い方についても伺っています。

「いい言葉で人の心を動かすっていうのは人間にとって、非常に必要なこと。逆に人を傷つける言葉は、そこに思いやりがないわけでしょ。人のことを考えない、自分さえよければいいっていう考え方だと、おのずと棘のある言葉が出ますよ。
つまり、言葉の問題というのは、根本的な生き方の問題でしょ。生き方が出てくるのが言葉なんだから。出てきたもとを反映するじゃないですか。人間がいかにちゃんとものを考えて、思いやりがあって、ちゃんとした人間らしい生き方をしていれば、いい言葉が出てきますよね。そういう基本的な人間の生き方を見つめてれば、いい言葉が生まれてくるんですよ」(戸田さん)

人の心を揺さぶるコトバというものは、そのコトバを生み出す人の、人間らしい生き方や考え方を反映したもの。それは、どんな名言にも通底する真理のように感じます。