「オフロードを走らない」オーナーがほとんど
それでも妥協しないGクラスの開発チーム
フランスで開催された最新Gクラスの試乗会には、一般道に加えて特設のグラベルコースが用意されていた。Gクラスのオフロード走破性を存分に試してほしいというメルセデス側の気概が伝わってくる。一方で、Gクラス・オーナーのどれほどが、オフロード走行を楽しんでいるのだろうかと疑問に思った。メルセデスのリサーチによると、オーナーの約95%は、所有期間中に一度もオフロードを走らないそうだ。
オーナーの実態がここまで明らかになったのであれば、「もう少しオンロード寄りのセッティングにしよう」という判断が働いてもおかしくない。むしろそうするほうが一般的だろう。オフロード走破レベルの低下と引き換えに、もっと静粛性が高くなり、もっと乗り心地がよくなったとしても、少なくとも都内で頻繁に遭遇するGクラス・オーナーから文句は出ないはずだ。ところがGクラスの開発チームの見解はまったく異なるものだった。今回のモデルチェンジ前の仕様で、唯一満足できていなかったのはメルセデスAMG・G63のオフロード走破性だったという。「オフロードではエンジンパワーがシャシーよりも勝ちすぎていて、4輪の接地性がイマイチだった」そうだ。G63はGクラスの中でも特別な存在。オーナーに聞いたら、おそらく限りなく100%に近い人が「オフロードなんか走らない」と答えるだろうに、それでも妥協しない彼らの強い意志とこだわりにはほとほと頭が下がる。
そして開発チームは、G63にAMGアクティブライドコントロールサスペンションを用意することにした。本国ではオプションだが、日本仕様は標準である。AMGアクティブライドコントロールサスペンションはすでにSLなどにも採用されているシステムで、4輪のダンパーを回路でつなぎ、状況に応じてオイルの流量を融通しながら個々に最適な減衰力を与えるというもの。これならば、グラベルのような路面でも接地性の向上が期待できるし、オンロードでの乗り心地もさらによくなることが見込まれる。実際にグラベルを走って、意図的にアクセルペダルを多く踏み込んでみても4輪はなかなかグリップを失わず、圧倒的なスタビリティの高さを披露しながらどんどん車速を上げていく。ほぼ間違いなく、グラベルではメルセデス史上最速のモデルだと思った。もちろん、彼らの目論見どおり、オンロードでの乗り心地も改善されている。ばね上の動きはよりフラットになり、サスペンションとタイヤ由来のコツコツした硬めの入力はかなり軽減されていた。