激しい競争や社内外の調整業務に振り回され、気づけば仕事への情熱は失われ、消耗してくばかり…。多くのビジネスパーソンがこのような悩みを抱えている。
しかし、厳しい競争に勝ち抜いて一人で成功する時代は終わった
これからは競争よりも助け合いの時代だと、『パートナーシップーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』の著者であり、マイクロソフトのアジアリージョンマネージャーとして活躍するイ・ソヨン氏は断言する。
マイクロソフトのアジアリージョンマネージャーとして活躍する著者は、2人の子どもを育てるワーキングマザーでもあり、マイクロソフトの復活を支えた競争よりも助け合いという考え方は、親子夫婦関係にも応用できるという。
エンタメ系雑誌で編集・ライターをしている高橋尚子さんが、本書の考え方を自身の仕事にどう活かし、仕事への情熱を取り戻したのかをレポートする。

『パートナーシップーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』Photo: Adobe Stock

ビジネス書を読んで初めて泣いた

ビジネス書を読んで初めて泣いた。それがこの『パートナーシップーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』だ。

普段はドラマやアイドルを追いかけ、エンタメ系雑誌で編集・ライターをしている私だが、意外にも愛読書はビジネス書である。なにせ忙しい。常に上層部や競合誌と戦っている。

「ヒットを生むには?」「時間を有効に使うには?」「マネジメントも必要?」などと頭を悩ませ、そのノウハウをビジネス書に求めてきて、本書に出会った。

この本の著者、イ・ソヨン氏は、ベンチャー起業を立ち上げたのち、マイクロソフト本社で19年間、様々なプロジェクトのマネージャーを務め、現在は同社のアジアリージョンマネージャーとして活躍している。つまり桁違いのエリートだ。

そんなIT業界の先端をひた走ってきた彼女の人生は、ある日、一転する。10歳年下の後輩が彼女の上司に抜擢されたのだ。激しい競争社会で自分の居場所を見失った彼女の葛藤たるや。

そのなかで彼女がたどり着く「ライフワーク(仕事の本質的価値)」と、「パートナーシップ(ともに成長する関係)」というマインドセットは、悩める私の心のど真ん中に刺さった。

『パートナーシップーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』Photo: Adobe Stock

時代のスピードにとらわれ、見失っていた大切なこと

私が身を置くエンタメ業界、出版業界も、著者が身を置くIT業界と同様、常に流行を追い、ヒットを仕掛けていく競争社会だ。

それでも楽しくて夢中で走ってきたが、ここに来てTVから動画配信へ、紙媒体からオンライン記事へとさまざまな移行の波が押し寄せ、生き残っていくための新たな戦いを強いられている。

「いいもの、おもしろいものを伝えたい」という私の情熱は、激変する時代のスピードについていけず葛藤に変わっていった。他社(他者)より早く情報を発信すること、新たなヒットを生むこと、数字という売上を立てることに囚われた。

大切なものを見失っていくような不安のなか、本書で出会った言葉がこれだ。

「ライフワークが明確になれば、たとえ仕事が変わったりなくなったりしても、人生の目的、自分の価値までが消えることはありません」

著者は挫折を経て省察する。与えられた仕事を、単なるマネジメント業務ではなく「人の成長をサポートする仕事」だととらえ直し、それこそが「自身のライフワークである」と昇華したのだ。

力強い。これか、と思った。

私の場合、「最新情報を記事化する」ことが日々の仕事だとすれば、その大本にあるビジョンは、「いいものを皆で育てること」だ。優れたエンターテイメント作品や才能を応援し、世に広めていくことなのだ。

自分の仕事の本質が明確になると、これまで他媒体との競争にキリキリしていた自分の姿にはたと気づく。

業界全体でいいものを広めていくことが、私の仕事で、ライフワークじゃないか? ここに立ち戻ったとき、ほろほろと泣いた。わかっていたつもりだが、いつの間にか見失っていたのだ。

『パートナーシップーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』Photo: Adobe Stock

「競争より助け合い」で周囲が、そして自らも幸せに

この本では「競争より助け合い」が個々の成長につながり、成功に導くことを、マイクロソフトの企業改革による著者自身の経験を例に語っている。

なかでも、能力は高いのにやや問題ありの部下と強固な「パートナーシップ」を築いていくエピソードは、思うように伸びてくれない後輩スタップのことで悩んでいた自分にとって、ぱっと明るい希望の光を見せてくれた。

自分ばかりが「指導」という形で価値を提供している感覚になっていたが、そもそもパートナーシップとは、一方通行の関係ではない。そこで、著者のように相手が持つ能力を一緒に探すことを試みた。今、彼女は少しずつ自分に自信をつけ、トライしてくれている。

もうひとつ印象的だったのは、「マイクロソフトは、顧客やユーザーが好むサービスであれば、たとえライバル社であっても積極的にパートナーシップを結んでいる」という話だ。

実は私は少し前から情報発信の場としてYouTubeに挑んでいたが、読者の雑誌離れに加担しているのでは……という後ろめたさが少なからずあった。

しかし、結果は逆だ。動画を見て気に入ってくれた方が雑誌を手にとってくれたり、逆に雑誌の愛読者がYou Tubeにコメントをくれたりと、相乗効果を生み出している。まさに「競争ではなく助け合い」といえよう。

つまり、仕事とは誰かとの競争や戦いではなく、上司も部下も、ライバルでさえも、それぞれが自分の能力(価値)を相手に提供し、助け合いながら、ともに成長していくものなのだ。

明確なビジョンを土台にした、この「パートナーシップ」「成長マインド」という著者の考え方は、私を興奮させた。

「自分が貢献できる部分を積極的に探し、提供する」

成功するパートナーシップは、ここから始まるのかもしれない。競争に疲弊するより、思い通りにならない相手に落ち込むより、助け合うことから成長し、成功していくって、素敵じゃないか!

迷ったり、つまずいたりしたら、本書を読み返せばいい。立ち戻るべき「本質」のマインドがここにはあるから。

高橋尚子(たかはし・なおこ)

1970年、宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部中退。児童書の編集を経て、TV誌の編集・ライターをしていたとき、第一次韓流ブームが到来。韓国ドラマの紹介誌を手掛けたことからその魅力にハマり、2003年、韓流専門誌『韓国TVドラマガイド』(双葉社)を企画・創刊。チーフエディターとして2023年現在、103号まで続く雑誌に育てる。そのほか一般誌や書籍、WEBなどで執筆を展開。2022年には韓流ナビゲーター田代親世氏とともにYou Tubeチャンネル「ちかちゃんねる☆韓流本舗」を開設し、月曜から木曜の週4で韓流情報を発信している。
https://www.youtube.com/@hanryuhonpo