「負けるのが怖い」「勝敗をつけられたくない」「他人と比べられたくない」。今の時代、そう考える人は多い。「みんな仲良く」が正義とされ、会社や学校から「誰かと競うこと」が排除された結果、「競争への免疫力」が低下してしまった。
この現状に継承を鳴らしているのが、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』が話題になるなど、メディアにも多数出演している。その金間さんの新刊『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』では、社会人1200人に調査を行い、「誰かと競うこと」がもたらす驚くべき価値を解明した。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「ライバルの有無に関する調査結果」を紹介する。
「誰かと競うこと」は「悪」である。
近年、とくに若い世代を中心に、こういった考え方が広まっているように感じる。
しかし、競争することは本当に「悪」なのだろうか?
競争を排除し、「みんな仲良く」を徹底した「行き過ぎた協調社会」になったことで、失われたものもあるのではないか。
この問いに答えを出すために、今回、ある大規模な調査を行った。
その結果、「競争から逃げる現代人」の実態が見えてきた。
1200人のライバル実態調査の結果から
この研究は大きく分けて、質問票調査を中心とした定量調査と、直接的な聞き取り(インタビュー)を中心とした定性調査からなる。
まずは質問票調査の概要から。対象は20代から40代までの社会人とした。この研究のターゲットは「日本で働くすべての人」だ。最終的なメッセージも、社会人としての成長と自己実現にある。よって、無職の人や学生は除いた。その上で対象を性別と年代で6つのグループに分け、それぞれ約200人ずつになるようにした。つまり合計1200人(200人×6グループ)となる。
質問票は合計16の大問からなる。設問の生成は、心理学などの分野における学術的な先行研究に依拠した。
質問票調査は、2023年12月に株式会社クロス・マーケティングの協力を得て実施した。回収した1200人のデータの中には、前後で明らかに矛盾した回答や、ある一定区間の設問にすべて「3」とマークした回答などが含まれていた。これらを除去した合計1151人を、本質問票調査のサンプル集団とした。
また今回の研究では、この質問票調査の他にインタビュー調査も実施した。インタビューの第一対象者は、質問票調査と同様、20代から40代の社会人23名だ。本研究では、これに加え8名の大学生・大学院生にもインタビューした。
以上の質問票調査、インタビュー調査に、学術的な文献調査を組み合わせた調査研究を、ここでは「本研究」と呼ぶことにする。これらの研究結果を踏まえ、これまで封印されてきた存在「ライバル」について、可能な限りエビデンス・ベースドの形でお届けする。
ライバルがいる人は「何割?」
では、一体どれくらいの人に「ライバル」という存在がいるのだろう。本研究によって、意外な実態があらわになった。
本研究では、ライバルの有無を「現在いる」「かつていた」「一度もいない」の3タイプに区分した。その区分を質問票に落とし込み、1151人に問うた結果が、下記だ。
・現在いる:20.4%
・かつていた:19.0%
・一度もいない:60.6%
「現在いる」あるいは「かつていた」という人が合わせて約4割。
一方で、これまで「一度もいない」という人が約6割となった。
この結果は、後に示す他機関の調査結果とおおむね一致している。とくに共通しているのは「ライバルはいない」という人が約6割という点だ。これが現在、日本で働く人たちの傾向ということだろう。
つまり現代では、「誰かと競争している人」は少数派なのだ。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)