今は「みんな仲良く」が正義とされる時代だ。「競争」は悪とされ、会社や学校でも「誰かと競うこと」は減った。一方で、それによって「競争への免疫力」も下がってしまった。とくに若い世代を中心に、「負けるのが怖い」「勝って相手に嫌な気持ちをさせたくない」と考える人は多い。
そんな状況を打破するヒントが、「ライバル」の存在にある。そう話すのは、金沢大学教授の金間大介さんだ。モチベーション研究を専門とし、現代の若者たちを分析した著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』が話題になるなど、メディアにも多数出演している。その金間さん待望の新作『ライバルはいるか? ー科学的に導き出された「実力以上」を引き出すたった1つの方法』が刊行。社会人1200人に調査を行い、「ライバル」が人生にもたらす驚くべき価値を解明した。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「ライバルに対するイメージ調査の意外な結果」を紹介する。
「ライバル」のイメージ
「ライバル」という言葉を聞いて、読者の皆さんはどんなイメージを思い浮かべるだろう?
(幼き頃の)僕の場合は、「圧倒的な強さ(と絶望感)」「ワクワクさせてくれる存在」といったところ。こんな風に、人によって思うこと、感じることは様々だろう。
ただ、本研究を通して、僕は意外な事実を得た。
「1151人調査」の結果
本研究では、質問票調査の中で「ライバルと聞いて思い浮かぶイメージ」を問うている。複数の選択肢の中から最大3つを選択してもらう形式とし、その結果を集計した。
そして、ただ単純集計しただけではつまらないので、「ライバルの有無」に関する3つの区分(現在いる、かつていた、一度もいない)でクロス集計した。その結果、この3区分で、回答結果のバランスが異なってくることがわかってきた。
たとえば、ライバルのイメージとして「お互いに協力し合う」を選択した人は、「現在いる」のグループでは28%、「かつていた」のグループでは12%、「一度もいない」のグループでは8%程度となった。
ライバルがいる人ほど「前向き」なライバル像を持つ
さらに強調したいのは次の2点だ。
1つ目は、「現在いる」グループの人たちが選択した項目のポジティブさだ。
「より一層努力している」を筆頭に、「お互いに協力し合う」「お互いが高め合っている」「お互いの存在を認めている」という具合に、実に好印象のイメージが並ぶ。
強調したいのは、「現在いる」という名の通り、このグループはアンケートを回答する時点で、具体的なライバルが存在している。したがって質問票調査にも、そのライバルを念頭に置きながら回答していたことだろう。
そんな、ライバルに対する高い解像度を持った回答者たちが答えたイメージ像が、「より一層努力し、協力し合い、高め合い、認める」ライバルたち。実際にライバルを持っている人たちが、いかにライバルとポジティブな関係を構築しているかを垣間見ることができる。
ライバルがいない人ほど、ライバルを「恐れる」
強調したいもう1つの点が、「一度もいない」グループの人たちが持つネガティブなライバル像だ。
相手のことが怖くなり、お互いを疲弊させ、最後は自分自身を見失ってしまう。そんなイメージ像が浮かび上がる。
何ともつらいイメージだが、ここでの注目点は、このグループは「一度もライバルを持ったことがない」ということ。つまりイメージだけで、このような負のライバル像を描いていることになる。
ライバルが「競争への恐怖心」を消してくれる
最初にこのデータを見たときは、「『ライバルって怖いものだ』『疲れてしまうものだ』と思い込んでいるから、今まで一度もライバルを持ったことがないんだ。要するに食わず嫌いの人たちだ」と思った。でも、おそらくそんな単純な話ではない。
「人間関係に対するイメージは、自分自身の内面や経験を投影する」という。
ライバルがいないにもかかわらず、負のイメージ像を持ってしまう人たち。
それはもしかしたら自分でも意識していないような、過去における何らかの人間関係が影響している可能性がある。
ということは、実際にライバルを持つことで、少しずつそんな負のイメージが払拭されていくかもしれない。
(本稿は、書籍『ライバルはいるか?』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)