次々と健康施策を打ち出すことで従業員の意識にも変化が

 コロナ禍で追い込まれた齋藤社長だが、それでも健康経営を諦めなかった。パンデミックが終息してイベントが再開され、仕事が徐々に戻ってきたときのために、従業員の運動不足を何とか解消しようと、仕事の始まる前や、待ち時間に、ドライバーが運転席に座ったままできる骨盤矯正ストレッチや、荷台を使って簡単にできる運動といった同社の“オリジナル体操”をインストラクターに依頼して作ったのだ。

「運動は継続が何よりも大事。体操を企業文化にしようと、研修時やオンライン会議のとき、入社式などさまざまな機会で実施することにしました」

 この取り組みをもって東京都スポーツ推進企業認定制度に応募したところ、認定を取得。すると、無償でスポーツインストラクターを派遣してもらえることになった。ドライバーと事務員がストレッチを毎週行った結果、23年度には東京都スポーツ推進モデル企業にも選ばれた。24年からは、月に1度、ヨガインストラクターを呼んで従業員全員でヨガを行っている。「中小企業だからこそ、いろいろな制度を活用することで健康経営がやりやすくなる」と齋藤社長は語る。

人手不足に長時間労働。課題だらけの運送業界で「健康経営」を実践する“変革者”

 また従業員の食生活の改善にも着手、管理栄養士を呼んで食事に関する講習会を実施した。難しい栄養バランスの話だけではなく、甘い飲み物や菓子パン、カップラーメンは砂糖や脂質がどれくらい入っているか、コンビニでお昼を買うときはどんなものを選ぶといいかなど、身近な内容で啓蒙を行ったところ、「缶コーヒーにこんなに砂糖が入っているなんて」と、驚くドライバーが多かったという。

 さらに、サイショウ・エクスプレスでは2カ月に1度、会社で健康的な食事を作り、ドライバーに食べてもらう「ドライバーズデイ」を開催している。食に対する意識を変えてもらうとともに、何か災害が起きたときに会社で食事を作れる体制を整えた。ドライバーたちは皆大喜びで、ドライバーズデイを心待ちにするようになったという。また副次的な効果として、事務スタッフとドライバーのコミュニケーションの増加により社内の雰囲気も良くなった。

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 さらに、マインドフルネス研修や、働く女性の健康についての研修、ビジネスマナー研修なども実施、従業員の意識は確実に変わってきた。ごみ箱からカップラーメンの容器や甘いコーヒー、ジュースの空き缶が明らかに減ったのだ。

 そしてついに成果は表れた。20年に50%を超えていた健康診断の有所見率が24年には10%台に下がり、ストレスチェックで問題のある人はゼロになったのだ。また喫煙率も劇的に下がった。コロナ禍で一時的に減ったドライバー職を募集したところ、直近で入社してくるメンバーは、サイショウ・エクスプレスの健康経営の理念を理解しているため、喫煙や運動不足などに問題意識があり、ますます健康への理解が深まっていると齋藤社長は話す。

「当社の企業理念は、『人と車の健康を第一に考え、全ての人に安心・安全・愉しさを提供する企業であり続ける』。みんなが笑って健康で、豊かで幸せに働いている運送会社にしたいんです」と齋藤社長。健康経営がきっかけで人材難も解決し、組織も活性化。運送業界の新しい未来が、まさにここにある。