2024年3月期に複数案件の採算悪化から損失引当金を計上し、赤字となった日揮ホールディングスと、米LNGプロジェクトのJVパートナーの破産法申請で決算時期を大幅に遅らせたうえに赤字決算となった千代田化工建設。エンジニアリング大手2社の上半期の業績は、順調に推移している。ただ、そこに影を落としているのが、脱炭素化投資の増加と、コスト増に追いつけない顧客の認識のズレによる「投資決定の遅れ」がある。両社が収益の柱とする大型LNGプロジェクトの中で投資決定の遅れが懸念される案件をリストアップ。リスクの本質についても解説する。(エネルギー・ジャーナリスト 宗 敦司)
上期業績は好調に推移も
リスク要因の排除は未完
昨年度、赤字決算に沈んだプラント大手の日揮ホールディングスと千代田化工建設。その要因はいずれも、海外案件での損失の見込みを前倒しで引き当てた結果だった。
日揮ホールディングスは、遂行中の複数の案件で採算悪化が発生したため2024年3月期決算で、最終損益は78億円の赤字だった。その後グローバル経営体制の見直しなどにより、今年度上半期は堅調であった。前期の損失案件のうち、国内のバイオマス発電は既に完工。その他の案件は、3月に修正されたスケジュールに沿って建設が進んでおり、追加費用の計上も今のところない。
一方、千代田化工建設の損失要因は米国のゴールデンパスLNGプロジェクトによるもの。ジョイントベンチャー(JV)パートナーで現地工事のリーダーであるザクリーが米破産法11章(チャプター11)を申請、JVからの脱退を表明したことで、千代田化工が追加費用2370億円の引当金を計上。158億円の赤字となっていた。
その後ザクリーのプロジェクトからの撤退、およびザクリー担当工事分をCB&Iが遂行することが正式決定。さらに修正契約をJVとゴールデンパス事業会社との間で結ぶことが決まった。修正契約は(1)第1系列と、(2)第2、第3系列に関する契約の2つを結ぶことになっており、第1系列に関してはこのほど契約。千代田化工建設では「今年度内にも第2、第3系列の契約を交わしたい」(太田光治社長)としている。またインドネシアのLNGプロジェクトが順調に完了したことで、積み上げていた予備費を取り崩し、大幅な増益となった。両社の上半期決算は、おおむね好調に推移したといえるだろう。
しかし両社のリスク要因は完全に排除されたわけではない。日揮では損失計上した案件をまだ遂行中であり、しかも建設初期段階の案件も含まれている。プロジェクト遂行体制の見直しも進行中だ。日揮の佐藤雅之会長兼CEOは「予断を許さない。引き続き気を引き締めていく」としている。
千代田化工でも、6月の決算発表時点ではゴールデンパスLNGの修正契約の時期について「第1系列については上半期中にも修正契約を交わしたい」(同)としていたが、これも少し遅れた。ザクリーが手がけていた建設工事の状況把握や、工事に必要な項目の精査に時間がかかったためとしているが、今後第2、第3系列の交渉が長引けば完成時期の先送りにもつながる。そうなるとさらに追加費用がかさむことになる。カタールエナジーなどゴールデンパス事業者側が、この費用まで引き受けてくれれば問題ないが、それについても交渉の対象となる。
両社とも難しい状況が継続していることに変わりはない。実は、そうした懸念に加え、エンジニアリング大手2社は環境負荷が石油より低い点で再び脚光を浴びるLNGプロジェクトで新たなリスクに直面している。次ページで明らかにしていく。