定年前後の決断で、人生の手取りは2000万円以上変わる! マネージャーナリストでもある税理士の板倉京氏が著し、「わかりやすい」「本当に得をした!」と大人気になった書籍が、2024年の制度改正に合わせ改訂&パワーアップ!「知らないと大損する!定年前後のお金の正解 改訂版」として発売されました。本連載では、本書から抜粋して、定年前後に陥りがちな「落とし穴」や知っているだけでトクするポイントを紹介していきます。
定年後には税や社会保険料の知識が必須になる!
長くサラリーマン生活を続けていると、税金も社会保険料も会社任せで、自分が何をどれだけ払っているのか意識していない方がほとんどです。しかし、定年後はそういうわけにはいきません。
定年前後に気を付けるべき「落とし穴」や、知っているとトクする「裏ワザ」を紹介した本書から、著者である板倉京先生(下記M)に、お金オンチの担当Iが、いまさら恥ずかしくて聞けない「基本のキ」を訪ねた部分を抜粋して紹介します!
今話題の「扶養の壁」問題は定年前後世代にも、大きく関係する話です。
社会保険料と扶養
板倉京(以下M) 社会保険料って、実は震えるほど高いのに、あまり気にしてないサラリーマンが多いですね。
担当I(以下I)仕組みが税金以上にややこしそうで……。
M 確かに、税金より複雑でわかりにくいので、簡単に説明しますね。
まずサラリーマンが払っている社会保険料は
①健康保険料(40歳以上は介護保険料含む)
②厚生年金保険料
③雇用保険料
の3つです。
健康保険料と介護保険料を支払うことで、健康保険や介護保険が使えますし、厚生年金保険料を支払うことで、老齢基礎年金と老齢厚生年金が受給できます。また雇用保険料を払っていると失業手当や様々な給付金をもらえます。
I それぞれ、いったいどのくらい払っているんですか?
M ①は加入している健康保険によって料率が違うのですが、協会けんぽ(東京都)の40歳以上を例にとると、報酬の11.82%。②が一律、報酬の18.3%です。合わせると報酬の30%程度になりますが、これを事業主と個人で折半して払うので、個人負担分は①②合わせて15%くらいです。
I ③の雇用保険料は?
M 雇用保険料は、業種によって違いますが基本、報酬の1.55%。それを、事業主と個人で負担します。個人負担は0.6%程度と健康保険や年金に比べて激安です。
社会保険料の負担は重い
I 社会保険料は、税金と違って、報酬全体にかかるんだ! 「控除」とかもないんですね。
M そうなんです! だから負担が重いし、しかも税金みたいに累進でもなく一律にかかる。年収500万円くらいで料率が15%だと、年間約75万円も払ってます。
I ちなみに、年収ベースですか?
M いえ、正確には「標準報酬月額」がベースになります。「標準報酬月額」は、4、5、6月の3か月間の報酬(給与・手当・通勤費)の平均額を、区切りの良い幅で区分したもの。だから4月から6月に残業して報酬が多くなると、年収が変わらなくても社会保険料が上がることもあるんですよ。
定年後も健康保険・介護保険料は払う
I 会社を辞めても、これらは支払うんですか?
M ①の健康保険&介護保険料については、本書のp204で詳しく説明していますが、誰かの扶養に入らない限りは、社保か国保などの違いはあっても基本的には、死ぬまで支払い続けます。
I ひえ─。
M ②の厚生年金保険料は、厚生年金を通じて国民年金も払っているという二階建構造です。60歳前で会社を辞めた場合は、60歳になるまで国民年金のみ自分で支払います。会社に勤めている間は70歳まで厚生年金を払い続けます。③の雇用保険料は、会社を辞めたら払わなくてOKです。
社会保険料、モトは取れるの?
I しかし、これだけ、払っていてモトは取れるんでしょうか?
M 雇用保険は、安いわりに失業給付などの額が大きいので、給付をもらえばモトが取れるでしょうね。他はどうでしょうか。
年金は受給年齢もどんどん後ろ倒し。国民年金部分は老齢基礎年金、厚生年金部分は老齢厚生年金として受け取りますが、どちらも原則65歳からです。
I 健康保険や介護保険はどうですか?
M 医療費の自己負担は、0~6歳未満が2割、6~70歳が3割、70~74歳が2~3割、75歳以上が1~3割、介護保険は、1~3割です。
I 自己負担率に1~3割などの幅があるのはなぜですか?
M それは、収入によって自己負担率が変わるから。だから、年金をたくさんもらいすぎると、払う保険料も増える上に、医療費や介護保険の自己負担額も増える可能性があることは覚えておいたほうがいいですね。
I 社会保険料、地味におそろしいですね。控除もないから節税的なこともできにくい。
M そうですね、社保の裏ワザは「扶養」を駆使するくらいですかね……。
I 扶養を駆使!?
そもそも扶養って……
M 本書のp144でも説明しましたが、「扶養」には「税金上の扶養」と「社会保険上の扶養」があります。税金上の扶養は所得が48万円以下(配偶者は133万円以下)、社保上の扶養は、年収が180万円未満(60歳以上の場合。60歳未満は130万円未満。条件などは組合によって違うので要確認)。60歳以降で年収180万円未満なら、家族の社保に「扶養家族」として“タダで”入れるわけです。しかも社保の収入の判定は、過去の稼ぎでなく、今後の「見込み収入額」で決めるので収入の見込みが立たないうちは扶養に入っておくとおトクです。
I 扶養している人も、追加で保険料払わなくていい?
M ハイ! 何人、扶養家族がいても一緒です。
I なんと、太っ腹な。同居していない家族でも大丈夫ですか?
M 「生計を一にしている家族」つまり一定の仕送りをしてもらっていると証明できたら、離れて住んでる家族でもOKです。具体的な条件などは各健保にご確認ください。
I たとえば、離れて住んでいる会社員の息子の扶養に入れる可能性もあるわけですね。
M そうなんです! 実は、税金上の扶養も、離れて住んでいても「生計が一」の家族なら入れます。仕送りは前提ですが、税金上の扶養は仕送り額などの条件はないです。
I それはかなりグレーな言い回し(笑)。税金上の扶養は、「扶養している側」の扶養控除が増えて節税になりますよね。
M その通りです! 税金上の扶養に入れる親族は幅広く、子はもちろん自分や妻の父母や祖父母、叔父叔母なども入れます。自分が働いている子どもの扶養に入れば子どもの税金が安くなりますし、もしご自身がまだ稼いでいるなら、年取った親族を扶養に入れるとご自身の節税になります。
I 扶養家族の人数分、扶養控除してもらえる?
M 10人扶養家族がいれば10人分扶養控除できるんです。
I そ、それはいろんな親族に仕送りしたくなりますね!
勤め人は社会保険の「106万円の壁」にも注意!
M すでに説明してきたように、税金上の扶養に入るためには給与「103万円」(所得48万円)、社会保険上の扶養に入るためには収入「180万円(60歳未満は130万円)」など、扶養に入るためには様々な壁があります。
I 今、話題になっている「壁」ですね。
M さらに、勤め人には、一定の条件を超えて働くと社会保険に入らなければならない(≒家族の社保の扶養をはずれなければいけない)「106万円の壁」というものも存在し、その対象範囲が拡大してきています。「106万円の壁」とは、次の要件にあてはまる場合、年収が180万円(60歳未満は130万円)未満であっても、自分自身で社会保険に入らなければならないというもの。
❶1週間の所定労働時間が20時間以上
❷雇用期間が継続して2か月を超えて見込まれる
❸賃金の月額が8万8000円以上
❹学生ではない(夜間の学生は対象)
❺被保険者総数が常時51人以上の事業所に勤務(2024年10月以降)
I この条件の中で注目すべきは?
M 注目すべきは❺です。2022年9月以前は、❺が大企業(被保険者総数が501人以上)に勤務している人のみだったのですが、2022年10月以降101人以上の事業所に、さらに2024年10月以降は51人以上の事業所に勤務している人にも適用されるようになり、対象者が格段に増えてきています。仮に、月額8万8000円で働いた場合の社会保険料は、月額1万3252円、年間約16万円。これだけ、手取りが減ってしまうわけです。
個人事業主として働く分には、社会保険料は「180万円(60歳未満は130万円)の壁」のみを意識していればいいのですが、勤め人として働く場合には、知っておいていただきたい知識ですね。
*本記事は「知らないと大損する!定年前後のお金の正解 改訂版」から、抜粋・編集したものです。情報は本書の発売時のものです。