「相手の話を否定せずに聴くこと」は、
相手自身をそのまま認める行為
東日本大震災以降、被災者の話し相手になる「傾聴ボランティア」に取り組んだ方がいらっしゃったそうです。
「日常生活の苦しみやつらさ、将来への不安など、さまざまな気持ちを思い切り話してもらうと、いつしか、すっきりした声になる」と被災者の現状を綴る新聞記事(毎日新聞・地方版 2012年3月)を読みました。
臨床心理学では、「人は話すことにより、心が癒される」と考えられています(カウンセリングの父と呼ばれるカール・ロジャースの言葉)。「聴き役になる」だけで、相手の心に、大きな変化を起こすことができるのです。
いまの時代は、ストレスの多い社会です。「だれかに自分の話を一心に聴いてもらいたい」と思っている人は、とても多いものです。
衛藤先生は、
「人は、正されたいのではなく、ただ認められたい生き物」
とおっしゃっていました。
「相手の話を否定せずに聴くこと」は、相手自身をそのまま認めることと同じ意味を持つ行為です。だれかの話を、あなたがしっかりと聴いて受け止めてあげることができれば、その人を想像以上に助けることにつながるのですね。
研修で「聴き方のトレーニング」をすることがあります。
「あなたは人の話をきちんと聴いていると思いますか?」という私の問いかけに、「私は、人の話をちゃんと聴いているから、大丈夫です」と手を挙げた方がいらっしゃいました。
けれどその方を見ていても、「聴く技術」が身についているとは思えませんでした。なぜなら、「目を閉じて、腕を組んで、私の話を聴いていた」から。私には、「彼が寝ているように見えた」のです。
この方のように、本人は「人の話を聴いている」つもりでも、相手には「聴いていない」ように見えてしまうことが、多々あります。
大事なのは、「自分がどう思うか」ではなくて、「相手(話し手)がどう思うか」です。話し手が、「この人は、私の話を聴いてくれている」と感じていなければ、聴いていることにはなりません。
人は、「自分としっかり向き合ってくれる人」が好きです。向き合ってくれる人に心を開きます。