コーチングアップの5つのスキル

 プロのコーチがクライアント(コーチングを受ける顧客)にコーチングするときは、だいたい100のスキルが必要といわれています。部下が上司に対して行うコーチングアップにおいても、基本的には同じスキルを用いることができますが、ここでは、とくに重要な5つのスキルについて説明していきます。

傾聴のスキル
質問のスキル
敬意と感謝のスキル
報連相のスキル
提案のスキル

 これらのスキルは、コーチングの相手が、職場で目上の立場にある場合にとくに必要なスキルといえます。

 しかし、5つのスキルを教科書の通りに使えば、必ず上司に対して即座に効果的なコーチングアップができるというわけではありません。これらのスキルを状況に応じて使い分け、また、状況に応じて多少工夫しながら、コーチングアップのレパートリーを増やしていくよう心がけるとよいでしょう。

 今回は重要なスキルの5つのうち、「傾聴のスキル」と「質問のスキル」をご紹介しましょう。

相手が話しやすい雰囲気を
つくることがカギ

【ポイント】 話を「聴ける」部下になる

 「きく」という行為には、「聞く」(hear)、「聴く」(listen)、「訊く」(ask)の3つの種類があります。「聞く」は耳に入ってきている、あるいは情報が入ってきている状態です。それに対して「聴く」は、熱心に関心を持って耳を傾け、タイムリーに反応している状態です。そして3つめの「訊く」は、こちらが知りたいことを質問することです。

 「聴く力は人間力」といわれるほど、聴くという行為は奥深く、傾聴のスキルは、コーチングのなかでも、もっとも重要なスキルです。

 傾聴のスキルの大きなポイントは、「人の話を否定しないで最後まで聴く」というものです。話を途中でさえぎられると、誰でも気分を害するものですが、とりわけ、相手が上司の場合には、「失礼なやつだ」と思われる場合があるので注意が必要です。

 自分が話しているときというのは、自分のリズム、マイペースで話すことができます。ところが、相手の話を聴く場合には、相手のリズム、相手のペースに合わせなければなりません。大げさにいえば、自分の我、エゴというものを抑えて、相手を受容する心の余裕が必要になります。また、単に耳を傾けるだけでなく、話を聴いているということが相手に伝わるように接することが大切です。上司にとって、話にしっかりと耳を傾けてくれる部下は、たいてい可愛がられるものですし、最後まで話を聴くという姿勢をもつだけで、人間関係が改善する場合もあるのです。

 「聴く」行為は、決して受け身ではなく、相手に話させてあげる、相手の話をサポートする積極的なエネルギーの注ぎ方といえます。聴く姿勢の如何によって、上司を黙らせてしまうことも、逆に生き生きと話させることもできるのです。上司の話を聴いている姿勢を示すために、相手が言葉を発するたびに「はい」「ええ」と、あいづちを打つのが効果的です。