「周りを巻き込んでばかりいる人は嫌われます」
そう語るのは、転職エージェント「キープレイヤーズ」代表の高野秀敏さん。1.1万人以上のキャリア相談、4000社以上の採用支援の経験を持つヘッドハンターであり、「現場」と「経営者」の両方の視点で、「圧倒的に活躍する人たち」と関わってきました。
その高野さんがベンチャー流の「結果を出す働き方」をまとめた書籍『ベンチャーの作法』が刊行。“きれいごと”抜きの仕事論に、「若手のときに知りたかった!」「現代のビジネスパーソンの必読書だ!」とたちまち話題に。SNSでも多数の感想が投稿されるなど異例の反響となっています。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「大クレームに巻き込まれたエピソード」についてお伝えします。

仕事ができない人は「周りを巻き込んでばかり」いる。では、仕事ができる人はどうしている?Photo: Adobe Stock

他者を「巻き込む」より大事なこと

 他者を巻き込むのと同じくらい、他者に「巻き込まれる」ことも大事です。
 人を助けるから、自分も助けてもらえます。誘いに巻き込まれてあげるから、相手もこちらのお願いに巻き込まれてくれるのです。

 それに、巻き込まれた先に新たな出会いや成長が待っていることもあります。

あるクライアントからの「クレーム」

 インテリジェンスのクライアントに、とある家具屋さんがありました。
 先代社長であるお父様が突然お亡くなりになり、外資系のコンサル会社出身の息子さんが若くして継ぐことになった会社でした。

 あるとき、この2代目社長から大クレームを受けました。どうやら弊社が紹介した人材を採用したところ、その働きぶりに不満があったようです。
 担当していたのは、私でも、私の部下でもありませんでしたが、あまりのクレームに誰も対応できず、役員から「高野が行ってきてくれ」と言われました。
「なんで私が?」と思いましたが、言われたとおりに訪問しました。

 すると部屋に入るなり、机を蹴飛ばされて腹に直撃。電気が消されて、窓のブラインドも閉められ、こう言われました。

「日経新聞にも出ていて急成長してるインテリジェンスが経験者を紹介してきたから採用したんだ! でも、なんだあいつは! 全然ダメじゃないか。うちの役員は全員親父の代の人間で、みんな新社長(自分)はコンサル出身だかなんだか知らないけど、できないやつだと思ってる。これが俺の初仕事だったのに、どう責任取るんだ!」

 その後も罵倒が続き、16時に訪問したのが、帰る頃には23時を過ぎていました。

数年後にかかってきた「ある電話」

 当然、翌日も呼ばれ、その後も話し続けた結果、「もっといい人を紹介してほしい」となったため、次は私が真剣に人材を探してご紹介しました。
 その方は無事、活躍をしてくれました。

 それから数年後、私は人事部に異動し、現場を離れました。
 そして起業を決め、退職の手続きをしていたところ、電話が鳴りました。
 あの2代目社長からでした。

「高野さん元気? 起業するんだって? 私のこと覚えてますか?」

 あんなに怒られたことはなかったので、忘れるはずがありません。その社長は、続けてこう言いました。

「あのときはいろいろあったけど、君は絶対やる人だと思ってたよ。当時は自分も社長になったばかりで不安で、激怒してごめん。サラリーマンもいいけど会社をやるのもいいものだよ。大変なことがあったらいつでも連絡してきていいから」

 そう言って、携帯の番号を教えてくれました。
 当時、クレーム対応に巻き込まれた私は「貧乏くじを引いたな」と思いましたが、そのおかげで、思いがけない応援者を得たのです。

「巻き込まれる人」になれ

 他人の仕事やトラブルに巻き込まれることは誰もが嫌がると思いますが、そうやって巻き込まれた先で手にするものもあります。
 そもそも「誘われない」という人は、かなり危険な状態です。

「あの人に仕事をお願いすると、文句や批判が多い」
「トラブルが起きる可能性がある」
「責任を押し付けられるかもしれない」

 仕事はたしかにできるけど、他者やチームにとっては劇薬。
 そんな存在になってしまっているのかもしれません。

(本稿は、書籍『ベンチャーの作法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)